(ブルームバーグ):イーロン・マスク氏は宇宙開発企業スペースXと人工知能(AI)スタートアップxAIを統合する理由を説明する中で、最新の壮大な構想を示した。膨大な数のデータセンターを宇宙に配置するというビジョンだ。
SFのようだが、地球を周回するデータセンターがAI向けの高度な計算を担う未来を思い描いているのはマスク氏だけではない。アマゾン・ドット・コム創業者で、スペースXと競合するブルーオリジンを設立したジェフ・ベゾス氏もここ数カ月、このテクノロジー開発について頻繁に語っている。
グーグルの最高経営責任者(CEO)だったエリック・シュミット氏は、ロケット企業リラティビティー・スペースを買収した。同社を使ってデータセンターを打ち上げる狙いがあるとみられている。
AI業界が拡大し、開発各社がより高度かつ大量のデータを必要とするシステムを追求する中で、宇宙はデータセンターの受け皿として幾つかの魅力を有している。
大規模な衛星ネットワークを運用できる十分な空間があり、特定の軌道ではほぼ常時、太陽光にアクセスできる可能性がある。地上では用地や電力の確保に制約があるが、それを克服する助けになるかもしれない。
ただし、この構想にはエンジニアリング面で極めて大きな課題がある。テクノロジー業界が、経済的に「宇宙データセンター」を実用化するまでの道のりはまだ長い。
データセンターの宇宙移設を検討する世界的な富豪が増えているが、これは理にかなった話なのだろうか。
なぜデータセンターを地球外に移すのか
マスク氏とベゾス氏、シュミット氏らは、データセンターを宇宙に移すことで幾つかの重要な利点が得られると考えている。
企業のデータを保存し、Netflixの番組を配信し、アップルの「iPhone」をバックアップするといった機能を担うデータセンターは、世界各地に次々と建設されている。背景にはAIブームがあり、電力を大量に消費する大規模な施設の必要性は高まるばかりだ。
こうしたデータセンターには、AIモデルの学習やOpenAIの「ChatGPT」やグーグルの「ジェミニ(Gemini)」を動かすためのコンピューティング処理を担うサーバーが収容されている。
インターナショナル・データの調査担当バイスプレジデント、デーブ・マッカーシー氏は、「従来型のデータセンターと比べると、AIデータセンターの電力要件は10倍、場合によっては100倍に達することもある」と話す。
ブルームバーグNEF(BNEF)によると、米国のデータセンターが消費する電力量は2026-33年に倍増する見通しで、その大半はAIのエネルギー需要によるものだ。これは電力ネットワークや、こうした施設の近くに住む消費者の電力コストに重要な影響を及ぼす。
1つの解決策は、一部の企業が提案しているように、個別のハイパースケール(超大型)データセンター向けに全く新しい発電所を建設することだ。
そして、もう1つが宇宙だ。宇宙データセンターは太陽エネルギーのみに頼る。送電網に依存せず、電力ネットワークに負荷をかけない。
宇宙では、地球を周回する一部の太陽同期軌道で24時間365日、太陽光にアクセスできる可能性があり、理論上は常時の太陽光発電が可能になる。
地上では、こうした巨大なコンピューター群を設置するための土地を見つけることが課題になりがちだが、宇宙では企業側が数百から数千のデータセンター衛星を運用できる余地がはるかに大きいと言える。
1月30日付の提出書類によると、スペースXは最大で100万基に上る衛星の打ち上げ許可を求めている。規制面の負担も、地上より小さいかもしれない。従来、必要な承認や許可を取得するため、建設プロセスが数カ月から数年遅れることも少なくない。
データセンターを宇宙に打ち上げる場合、企業が主に必要とするのは、ロケットを繰り返し打ち上げるのに必要な米連邦航空局(FAA)の包括打ち上げ許可と、規制された無線周波数帯を使って大規模な衛星群の配備・運用をするための米連邦通信委員会(FCC)の包括コンステレーション許可だ。
スペースXのような企業は、衛星を軌道に投入するため、何十年にもわたり、これらの連邦機関から定期的に承認を得ている。
セントラルフロリダ大学で惑星科学・宇宙技術を研究しているリサーチプロフェッサー、フィル・メッツガー氏は、「FAAの包括打ち上げ許可とFCCの包括コンステレーション許可と、2件の申請だけで済む。それで何千、何万ものデータセンターを建設できる」と言う。
データセンターを宇宙に設置する最大の課題は何か
マスク氏はスペースXの宇宙船「スターシップ」で、合計最大100ギガワットの容量を持つデータセンター衛星ネットワークを打ち上げる構想を提案している。
AI半導体で世界をリードするエヌビディアが出資するシアトルのスタートアップ、スタークラウドは軌道上データセンター(5ギガワット)の建設を目指す。
こうした規模のシステムを動かすために必要な太陽光パネルは、途方もなく巨大なものになる。エヌビディアによると、スタークラウドのセンターには、幅と長さが共に4キロメートルという驚異的な大きさの太陽光パネルが必要になる。
地上の最大級データセンターは、まだこの規模には達していない。テキサス州アビリーンに計画されているOpenAIの「プロジェクト・スターゲート」のキャンパスは、1.2ギガワットの容量を支えるため、面積が37万2000平方メートルとなる予定だ。
これほど巨大な太陽光パネルは、現行ロケットでの打ち上げ自体が難題となるだけでなく、軌道上での維持管理も課題になる。宇宙空間での制御が難しく、特に宇宙ごみとの衝突による損傷に極めて弱い。
衛星本体にも、宇宙環境に耐えるための特別な技術が必要になる。宇宙には、太陽や遠方の恒星から放出される高エネルギー粒子である宇宙線が飛び交っており、十分に保護されていない宇宙船のエレクトロニクス機器に悪影響を及ぼす恐れがある。
さらに、これらの衛星にはもう1つの巨大な装置が必要になる。熱を放出するラジエーターだ。地上のデータセンターは、冷気や水を使ったさまざまな冷却技術でコンピューターの過熱を防いでいる。
だが宇宙は真空であり、宇宙船を冷却する唯一の方法は、赤外線として熱を宇宙空間に放出するラジエーターを使うことだ。ただし、その熱を捨てる場所には制約がある。
ペンシルベニア州立大学のジェイソン・ライト教授(天文学・天体物理学)は、「地球自体が暖かいため、宇宙空間に向かって上方に冷却する必要がある。地球から遠く離れれば、太陽と反対方向に向けて冷却できる。だが低軌道では、地球が視界の半分を占める」と指摘する。
これは、地表から約2000キロメートルまでの地球低軌道(LEO)にある衛星は、通常は異なる方向にある地球と太陽の双方から離れる向きに、放熱用ラジエーターを向け続けなければならないことを意味する。
宇宙船は約90分ごとに地球を周回するため、ラジエーターは適切な向きを保つために常に動かす必要があり、システムはより複雑で製造も難しくなる。
地球に近い宇宙空間はすでに人工衛星でいっぱいだ。そのため、テクノロジー業界内では、こうしたデータセンターを地球からはるかに離れた軌道で運用することも検討されている。
だが、この方法には運用上の課題があり、地上へのデータ送信がわずかながら遅くなる。
軌道上の衛星では、レイテンシー(latency)と呼ばれる信号遅延が発生する。LEOの衛星であれば、待ち時間は地上ネットワークで一般的なレイテンシーとほぼ同程度だ。一方、データセンターが設置される可能性の高い高高度の軌道では、レイテンシーは最大で3秒に達し得る。
また、宇宙船で何かが故障した場合、修理の選択肢は極めて限定される。ロボット衛星が故障したデータセンターにランデブーして不具合のある部品をより容易に交換できるよう、衛星はモジュール構造で製造する必要があると、メッツガー氏は今後について提言している。
スペースXは、部分再使用型ロケット「ファルコン9」によって、すでに打ち上げコストを引き下げている。
ただし、十分に低コストでデータセンター衛星を打ち上げられるかどうかは、スターシップの開発成功にかかっている可能性が高い。スターシップは完全な再使用を想定し、大量の貨物を安価に軌道へ運ぶことを目的に設計された巨大ロケットだ。
スターシップの開発はこれまで平坦ではなかった。25年の試験では、爆発が相次いだ。スペースXは、スターシップを用いた衛星展開能力を示したものの、スターシップはまだ完全な軌道飛行を実施していない。
完全再使用という夢の実現には、なお数年を要する可能性がある。
必要なテクノロジーはすでに全て存在するのか
宇宙データセンターに必要とされる太陽光パネルやラジエーターなどの技術の多くは、すでに数十年にわたって宇宙で使われてきた。
ほぼ全ての人工衛星が現在、電力を太陽光パネルに依存している。国際宇宙ステーション(ISS)は、データセンターと同様に過熱を防ぐため、ラジエーターを使って温度を調整している。
メッツガー氏は、宇宙データセンターが経済的に成立する可能性について楽観的な見方を示すものの、実現にはなお相当な研究開発が必要になるとみている。
「新しい物理法則が必要になるとは思わないが、テクニカルな成熟度を大きく高める必要がある」と述べ、太陽光パネルやラジエーター、放射線遮蔽材をより軽量かつ小型化し、宇宙への打ち上げや展開を容易にしなければならないと呼びかけた。
宇宙データセンターの重要なプレーヤーは誰か
マスク、ベゾス、シュミットの3氏に加え、宇宙データセンターに向けた構想を持つ企業や人物はほかにもいる。
グーグルは25年11月、AIコンピューティングを宇宙に移すテクノロジー開発を目的とした「プロジェクト・サンキャッチャー」を発表した。衛星企業プラネットと提携し、27年の早い時期までに試作衛星2基を打ち上げる計画だ。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によると、OpenAIのサム・アルトマンCEOは、データセンターを打ち上げる目的で、スペースXの競合企業を買収することを検討していたという。
スタークラウドだけがこのテクノロジーに取り組むスタートアップではない。ISSの代替施設を開発しているアクシオム・スペースもその1社だ。
中国も、将来のAIデータセンターに使われ得るテクノロジーを試験するAIスーパーコンピューターを宇宙に投入している。
スペースXは、軌道上に9300基を超える衛星を展開する衛星インターネットサービス「スターリンク」で独自の強みを持つ。同社のCEOであるマスク氏は、データセンター構築にスターリンクの技術を転用すると明らかにしている。
宇宙にデータセンターが誕生するのはいつか
大胆な予測で知られるマスク氏だが、その言葉通りに実現しないことも多い。同氏は「方程式のほかの部分を解決できれば」と前置きしつつ、今後4、5年以内にスターシップで複数のデータセンターを打ち上げる可能性を示した。
一方、ベゾス氏ははるかに慎重な見通しを示している。「10年以上はかかるが、20年を超えることはないと思う」と25年10月に語っていた。
とはいえ、全く新しい宇宙用ハードウエアの開発は往々にして想定以上の時間を要し、この事業が最終的にコスト面で成り立つかどうかは未知数だ。宇宙データセンターは10年以内に実現するかもしれないし、さらに長くSFの世界にとどまり続けるかもしれない。
原題:Will Putting AI Data Centers in Space Actually Work?: QuickTake(抜粋)
--取材協力:Riley Griffin.
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