(ブルームバーグ):一見すると、イエス・キリストの再臨に賭けるなど、笑い話にしか思えない。もしキリストが本当に戻ってくるなら、地上の金銭にどんな意味があるというのだろうか。
それでも昨年、再臨を信じる者と懐疑的な否定派の間で、予測市場のポリマーケットを通じて300万ドル(現在の為替レートで約4億7600万円)以上がこの賭けに投じられた。2025年最後の3カ月には予測市場の取引が一気に活発化し、週間の賭け金は20億ドルを超えた。
この「キリスト再臨」への賭けには、信じる者にとっても否定派にとっても、一つだけ「救い」があった。少なくとも、市場でインサイダー情報を持ち合わせている者はいないと、参加者全員がほぼ確信できる極めて公平な取引だった点だ。
一方で、最近注目を集めた多くの事例では、結果が判明する直前に不審なほど的中ポジションが積み上がったケースが目立つ。
大胆かつ全く想定外だった米軍によるベネズエラ攻撃とマドゥロ大統領の拘束は、その最新事例の一つだ。米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が報じたところでは、ポリマーケットに新規アカウントを開設したトレーダーが、昨年12月後半に始めたマドゥロ大統領失脚への賭けを倍に増やし、40万ドル余り稼いだ。
それはマドゥロ氏が今年1月31日までに権力の座を追われる可能性への賭けだった。全くのヤマ勘だったのかもしれないが、米軍が首都カラカスを急襲する数時間前に最後の大きな賭けが行われており、明らかにうさんくさい。
こうした例はほかにもある。
フォーブス誌によれば、別のトレーダーは昨年12月、アルファベット傘下グーグルの年間検索ランキングに載った上位23人のうち22人を的中させ、100万ドル余りを獲得した。このアカウントの持ち主は、グーグルの生成AI(人工知能)モデル「Gemini 3.0」の公開時期を巡る賭けでも大勝した。
マイケル・セイラー氏らが創業した米ストラテジー(旧マイクロストラテジー)によるビットコイン購入やノーベル平和賞の受賞者を巡り、並外れて大きな賭けが絶妙のタイミングで行われ、市場参加者の間で疑念が広がった例もある。
こうして予測市場という規制の緩いプラットフォームについて、内部情報を持つ者が他の利用者を食い物にしかねない金融無法地帯という認識が強まっている。大口の賭けを行う新規アカウントをリストアップする「インサイダーファインダー」というツールを分析会社ポリサイツが売り込むほど、疑念は深まっている。全てが必ずしも怪しいとは限らないが、他の利用者にとって少なくとも警告シグナルにはなる。
ポリマーケットと競合するカルシの広報担当者は、あらゆる形態のインサイダー取引を明確に禁じていると、ブルームバーグ・ニュースに語った。
一方、WSJ紙によると、ポリマーケットのシェイン・コプラン最高経営責任者(CEO)は、内部情報を持つ疑いのある利用者の動きに関し、X.comなどのソーシャルメディアで、ユーザーによる指摘が頻繁に行われていると述べた。しかし、悪いうわさがすぐ広まるというだけでは、市場の十分な防御策とは言い難い。
予測市場の契約の仕組みはスワップに似ており、米国のプラットフォームは米商品先物取引委員会(CFTC)の監督下にある。だがリソースが不足するCFTCは、賭けの規模や種類が止めどなく拡大するのをこれまで許してきた。最近数カ月のブームは大部分がスポーツ賭博に関係しており、複数の州の賭博規制当局が管轄権を認めるよう裁判所に求めている。
株式市場の参加者は、非公開情報を持つ者から資金を巻き上げられないよう守られているが、予測市場の利用者の現状はそうではない。ブルームバーグが伝えたところでは、ポリマーケットの米国外プラットフォームでは、匿名ウォレットから暗号資産で賭けることも可能で、不正行為が一層発覚しづらい。
市場の効率性を疑わない自由至上主義者らは、予測市場でも自浄作用が働くと主張するだろう。内部事情に通じた利用者が賭けを始めれば、その行動が発する価格シグナルで情報が広がるという理屈だ。
これが実際に機能するのであれば、株式市場にも適用し、誰もが非公開情報に基づいて取引できるようにすべきだろう。だが、そうしないのは、インサイダー情報を持たずに資金を投じた人々の損害が大きくなり、著しく不公平だからだ。
民主党のトーレス下院議員は、予測市場でのインサイダー取引を違法とする立法措置を求めている。どの機関が規制・監督を最終的に担うにせよ、これは正しいアプローチだ。実際には、予測市場それ自体がより厳格な規則を後押しすべきだろう。
既に散見されるような不審な事例が続けば、最も向こう見ずなギャンブラーでさえ二の足を踏むようになる。そうなれば、カルシとポリマーケットの企業価値をそれぞれ100億ドル余りにまで押し上げたこれまでの成功が覆される恐れがある。
グーグルの検索ランキングなど発表時期があらかじめ決まっている事案について、前日や1週間前など、公表の一定期間前に賭けを締め切ることも、プラットフォーム側が直ちに行える対策だ。不正行為の機会を制限することにつながるだろう。
利用者側も自衛できる。他人や特定の組織が結果を決めたり、明らかに影響を及ぼしたりできる対象には賭けないことだ。自由で公正な選挙のように何百万人もの人々が独立して判断する事象や、結果が「神の御業」に委ねられる賭けに専念すべきだ。
そう考えると、キリストが今年再臨「しない」方に賭けることは、あながちばかげた話でもなさそうだ。
(ポール・デービス氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Betting on Jesus Can Save You From Insiders: Paul J. Davies(抜粋)
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