(ブルームバーグ):米連邦準備制度理事会(FRB)は16日、2020年の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録を公表した。新型コロナ禍のまっただ中にあった20年9月会合の議事録からは、パウエル議長が後に「悔やんでいる」と吐露したガイダンスに至る経緯が浮かび上がる。
FRBはFOMC会合の3週間後に編集された形式での議事要旨を公開するが、完全な議事録の公開には5年を要する。
今回公表された一連の議事録は、新型コロナ禍による歴史的混乱の中でパウエル議長が果たした決定的な役割を浮き彫りにしている。当時、同議長が推進した金利に関する強いコミットメントが、インフレ高進後にFRBが対応に出遅れることにつながったとの批判は少なくない。
20年9月の会合が開かれたのは、新型コロナの感染が米国で拡大し始めて6カ月が経過していた時期で、政策金利は同年3月15日からゼロに維持されていた。そうしたなか、パウエル議長は経済回復が今後数年の長期に及ぶとの見方から、回復を促すためのゼロ金利をいつまで維持するのか、明確な声明を出すべきだと主張した。反対意見を持つ出席者もいたが、最終的に議長は自身の主張を通した。
20年9月のFOMC声明は「委員会が判断する最大限の雇用水準と労働市場の環境が整合的になるまで、またインフレが2%に上昇し、一定期間2%を適度に超える軌道に乗るまで」、ゼロ付近の政策金利を維持するとしていた。
FRBがインフレ指標として重視する個人消費支出(PCE)価格指数は、当時1.3%にとどまっていた。FOMCメンバーの予想中央値では、23年までに2%に達しないと見込まれていた。しかし実際には、その予想に反し、22年の年央に7.2%まで上昇した。パウエル議長を含め当局者の多くは、インフレの上振れは「一過性」のものだと判断し、対応は先送りされた。
20年9月の会合では、ダラス連銀のカプラン総裁(当時)とミネアポリス連銀のカシュカリ総裁がこの決定に反対票を投じた。カプラン氏はゼロ金利への強いコミットメントに反対。一方でカシュカリ氏は、より強いコミットメントを求めた。
しかし、カプラン氏の意見に少なくとも部分的には賛同するメンバーは、その場に複数いた。ボストン連銀のローゼングレン総裁(当時)と、リッチモンド連銀のバーキン総裁、アトランタ連銀のボスティック総裁もそうだった。議決権を持っていたフィラデルフィア連銀のハーカー総裁(当時)と、クリーブランド連銀のメスター総裁(当時)も懸念を共有していたが、結局は決定に賛成票を投じた。
メスター氏は「利上げ条件の変更は非常に重要だ」との認識を示したうえで、「委員会がそのコミットメントの意味合いについて十分に議論する機会を持つまで待ってから、この種の変更を行うのが望ましい」と会合で述べていた。
こうした意見とは対照的に、パウエル議長は求める文言を直ちに声明に盛り込むべきだと主張した。
「景気拡大が順調に進んでいる今こそ、完全回復に向けた長い道のりを歩む経済を支援するため、政策とコミュニケーションに焦点を絞るべきだ。これ以上待つ必要はない」とパウエル議長は述べた。さらに「ここまでの6カ月間、動かずにいた判断は賢明だったと思う。しかし、目標までの道のりは非常に長く、これ以上(ガイダンス強化を)先送りするのは、これまで築いた信頼性を損なうリスクがある」とした。
この議論から約1カ月前、FRBは金融政策における戦略的枠組みの抜本的見直しを発表していた。この見直しはパンデミック前から取り組んでいたものだ。
米金融当局では数十年前から、失業率が低すぎると判断された場合に将来的な物価圧力を予防的に抑えるため、金利を引き上げるという慣行があった。2020年の枠組み見直しでは、この慣行が事実上抑制された。失業率が低下しても有意なインフレが発生しなかったそれまで10年の経験から、この見直しは理にかなっているように見えた。
しかし議事録によれば、パウエル議長は外部にどう受け止められるかを気にしていた。
「人々が『変わった点はない』と考えるような状況に、いとも簡単に逆戻りしてしまう。実際、その兆候はすでに出ており、話題になっている。だからこそ、これは重要なのだ」とパウエル議長はFOMC会合で出席者を説得した。さらに 「今後、非常に弱い形のガイダンスを採用すれば、過去8年間われわれが用いてきた反応関数とほとんど変わらないように受け止められるだろう」と付け加えた。
それから約2年後の22年3月、FOMCは利上げを開始した。同年11月、パウエル議長はブルッキングス研究所のイベントで20年9月会合を振り返り、後悔していると認めた。
「現在経験しているインフレのすべてにこれが強く関係していたわけではないが、私がおそらく二度と採用しないであろうガイダンスのひとつは、『最大雇用と物価安定の両方が確認されない限り、利上げしない』と言った部分だ。これはもう繰り返さないだろう」と述べた。
早期の警戒
2020年の議事録は、パウエル議長が新型コロナの脅威を早期に認識していたことも明らかにしている。3月2日に開かれた緊急FOMCは、ウイルスが本格的に米国本土に到達する前の開催だった。当時、リスクを軽視する政策担当者もいる中で、パウエル議長は明確な警告を発していた。
「その週末にリヤドで開かれたG20会合では、新型コロナウイルスが世界中に広がる可能性への懸念が強まっていた」と議長は指摘した。
「市場と一般市民に対して、FRBおよび世界の政策当局が事態の重大性を理解し、金融環境の引き締まりに断固として対処し、経済を支援する意志があることを明確に示す必要がある」と主張した。
その日の緊急FOMCは、政策金利を0.5ポイント引き下げた。
原題:2020 Fed Transcripts Show How Powell Sold Fateful Rate Guidance(抜粋)
--取材協力:Tamsin McMahon.
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