ニューヨークのイーストビレッジにあるレストラン「HAGS」では、シェフで共同オーナーのテリー・ジャスティス氏が、食品廃棄ゼロを目指したメニュー作りに力を入れている。

キノコの軸やカボチャの切れ端など、通常は捨てられがちな食材をほぼすべての料理に活用する。もっとも、和牛ショートリブやホタテ料理も入ったコースは160ドル(約2万5000円)と、価格だけを見れば端材を使っているとは思われにくい。

HAGSでは、トマトとキュウリの風味を効かせた飲み物を作った後の絞りかすはローストし、ビーガンバターに練り込んでパンとともに提供している。

ジャスティス氏は「捨てられてしまうものを食べてもらいたいだけだ」と語り、食材の廃棄を「想像力の欠如」だと表現する。その上で「手間のかかる仕事だ。他の選択肢もあるが、私たちはあえてこれを選んでいる」と述べた。

関税や気候変動などを背景に、2026年も食料価格の上昇が続いている。こうした経済的要因もあり、外食産業では大量の食品廃棄を見直す動きが強まっている。

10億トンの廃棄

世界では毎年、10億トンを超える食品が廃棄されている。国連環境計画(UNEP)の2024年の報告書によると、その約3割は、レストランやカフェ、社員食堂などの外食関連施設によるものだ。

外食産業での廃棄食品の多くは、客が食事を終えた後、皿の上に残った形で生じている。

一方で、実際には食用可能でありながら捨てられている部位や、下処理に由来する廃棄もある。こうした部分の大半は十分に食用にできると、食品ロス削減に取り組む起業家のヴォイチェフ・ヴェフ氏は指摘する。同氏は自身が設立した「サープラス・フード・スタジオ」を通じ、カリフラワーやニンジンの葉、スイカの皮の白い部分に至るまで、再利用可能な食材を有効活用する取り組みをレストランと進めている。

助言の要請は増えているという。具体的には、同じ食材を複数の料理で使うメニューの設計や、豆類や自家製ピクルスなど保存性の高い常備食材を積極的に取り入れる工夫を勧めている。

食品ロスの可視化に取り組む英ウィノウ・ソリューションズの創業者、マーク・ゾーンズ氏によると、多くのレストランは廃棄物を体系的に把握しておらず、どれほどの量を捨てているのかを十分に認識していない。同社は厨房のごみ箱の中身を記録し、人工知能(AI)で分析する独自装置を通じ、こうした状況の改善を図っている。

ヒューストンのフォーシーズンズ・ホテルでは、食品ロスの量を可視化したことをきっかけに、トマトの切れ端やオレガノの茎、タマネギの皮などを活用したメキシコ料理「チキン・ティンガ・ケサディーヤ」を開発した。全体の約7割を再利用した食材で構成している。

マリオット・インターナショナルやハイアット・ホテルズなどを主要顧客とするゾーンズ氏によれば、ウィノウのシステムを導入することで、ホテルは平均で年2万5000ドル(約400万円)のコスト削減につながっているという。

廃棄ゼロを目指せ

高級レストランでは、上質な体験を求める期待が過度な下処理を生み、食品廃棄につながりやすい。

食品廃棄ゼロを掲げる英ロンドンのレストラン「Silo」のオーナー、ダグラス・マクマスター氏は「店の格が高いほど、廃棄の度合いも高くなる」と語る。「品質の追求に比例して廃棄は増える」という。

しかし、高価な端材は利益率を高める助けにもなり得る。頻繁に内容が変わる少量多品目のメニューは、手元にある食材を柔軟に使える点で有利だ。タマネギの皮は発酵させてうま味のあるソースに、パイナップルの皮は煮出してお茶にできる。割れたクッキーも、加工次第でアイスクリーム用のキャラメルに生まれ変わる可能性がある。

高級料理の世界で端材を活用する発想自体は、新しいものではない。約10年前には、持続可能な食の旗手として知られるダン・バーバー氏が、ニューヨークとロンドンで「WastED」と題したポップアップ企画を展開した。参加した著名シェフたちは、ジュースの搾りかすなどの残り物を使い、意欲的なコース料理を提供した。

現在はマクマスター氏が次世代の担い手として、この流れを率いている。新たな旗手としては、ロサンゼルスの二つ星レストラン「Vespertine」を手がけるジョーダン・カーン氏も挙げられる。同店の厨房には、ごみ箱すら置かれていない。首都ワシントンの「Oyster Oyster」やリスボンの「Sem」、バリ島のリゾート「Desa Potato Head」など、食品廃棄ゼロを掲げる高級店も各地で増えている。

2024年にメキシコ市で開業し、メキシコ初の食廃ゼロ飲食店を掲げる「Baldío」では、料理がメニューに載る以前から、廃棄を意識した取り組みが始まる。新たな料理案を検討する際、スタッフはまず、どのような端材が出るかを話し合うという。同店で発酵部門を統括するクリス・ロック氏によると、そこで発想を修正したり、切れ端をメニュー全体で活用する方法を探ったりする。

例えば、余ったブロッコリーの茎は部位ごとに使い分ける。中心部分はキムチに仕立て、外側の繊維質の多い部分は柔らかくなるまで加熱したうえでペースト状にし、ワカモレ風の「ブロカモレ」として提供する。

グリーンウォッシュ

しかし、食品ロス削減を掲げる飲み物を一品提供した程度では、廃棄抑制の効果は限定的だ。また、外食業界では、グリーンウオッシュ(見せかけの環境配慮)への懸念も常につきまとう。

食品安全が最優先される業務用厨房で廃棄を最小限に抑えるには、運営面での課題が伴う。すべての端材を管理できる設備や人員をレストランが常に備えているとは限らない。端材を余すことなく活用しようとすると、人件費は増加する傾向にある。

食品ロス削減を集客の売りにする店がある一方で、廃棄削減の取り組みをどこまでアピールするべきかについては慎重な見方もある。

サープラス・フードのヴェフ氏は「私たちが考えるほど、必ずしも来店客にとって魅力的とは限らない」と語る。廃棄削減の意味合いが十分に伝わらない場合、来店客が誤解し、「残り物を食べさせられるのではないか」と受け取ってしまうこともあるという。

食品ロス削減に取り組むレストランをさらに増やすためには、店側と来店客の双方に柔軟性が必要だと、HAGSのジャスティス氏は指摘する。

「私たちができることは、来店客が許容してくれる範囲に限られる」と同氏は述べ、食文化を変えるには「創意工夫が欠かせない」と強調した。

原題:As Food Costs Rise, Chefs Turn to Trash for $160 Tasting Menus (1)(抜粋)

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