お屠蘇気分も抜けきらない1月上旬、日本の「衆議院解散検討」報道や米国の「FRB議長訴追検討」という異例の事態が市場を揺るがしました。株価は急騰し、円安が進行、長期金利も上昇するなど、波乱の幕開けとなった市場の展望を大和証券チーフエコノミストの末廣徹氏が解説します。

「解散検討」の報道で株高・円安が進行

1月10日(金)夜、「衆院解散検討」の一報が飛び込んできました。市場では総選挙をにらんだ政府による積極財政への期待感が一気に高まり、週明けの日経平均株価が過去最高値を更新。為替市場では円安がじわりと進んで一時1ドル159円台に入るなど、大きなインパクトを与えました。

高市政権の動きについて末廣氏は、表向きは高い支持率をテコにした「攻めの解散」に見えるものの、その実「守りの解散ではないか」と指摘。「解散・総選挙でも参議院の議席は変わらない。統一教会に関連した部分など、予算委員会を乗り切るのが難しいといった守りの事情が大きいのではないか」と分析。さらに「選挙後に新政策が次々に出てくるというよりは、このタイミングしかなかったという判断だろう」との見解を示しました。

「ややトラス級」の日本国債売り

末廣氏は特に日本の国債市場の動きに注目します。長期金利が大きく上昇して2.15%を超えるなか「債券だけ見るとトラスショックとまでは言えないが、“ややトラス級”に近いぐらいの動きだ」と表現しました。

こうしたなかで国債市場関係者の間で使われるようになっているという表現が「落ちてくるナイフ」。「金利水準は魅力的なんだけれども、価格が下落しかねないものの入札に機関投資家が買い向かえるかという問題だ」と説明します。

さらに末廣氏は「もう経済合理性では説明できない動きが発生してしまっている」と指摘。一方で懸念材料としては「長期金利が上がって支持率が下がるかというと、そうではないだろう」とし、高市政権の経済政策の先行きをはかる指標としては「為替の方が引き続き重要」と強調しました。

前代未聞のFRB議長訴追騒動

こうしたなかアメリカでは、FRBのパウエル議長が議会での偽証を問われ訴追が検討されるという異例の事態が発生。パウエル議長は極めて異例な対応として、ビデオ声明で反論しました。

末廣氏は「訴追の検討も経済合理的ではない」と指摘。「特に住宅関連の議員が主導して、金利を下げさせるために攻撃するみたいな形になっている」と続けました。ただ、その裏側にはこうした危険性があると言います。「FRBの独立性がなくなってしまえば、市場はそんな不安な国の債券を買いたくなくなる。それでかえって長期金利にリスクプレミアムが乗って金利が高まるという予想もできる」。

攻撃を受けているパウエル氏は議長としての任期は5月に切れるものの理事としての任期が残ることから「居座るのではないか」という見方も市場で浮上。末廣氏は「そうはならないと見ているが、仮に残れば、トランプ政権とFRBの対立、そしてFRB内の対立も深まり、金融政策の不透明感が高まる」との見方を示しました。

「労働生産性の向上」が示す米経済の実態

この政治的な混乱と市場の強い反応の裏で、実体経済はどうなっているのか?末廣氏が注目したのは先週発表された12月の米雇用統計。予想を下回る弱い内容に末廣氏は「雇用者数が増えないのにGDPが強いのは、労働生産性が向上している証拠だ」と分析。「政治的なノイズとは裏腹に、経済はAIが本格的に寄与するフェーズに向かっている」との見方を示しました。

そのうえで今年の米国経済を占う「インフレ」の行方について「この状況、すなわち、生産性が上がって供給力が強くなっているのであれば、物価が上がることはないだろう」との見方を示しました。さらに今後については「AIによる潜在成長率の高まりを説明するようなデータが出てくるのではないか」と予測しています。

気になる今後の金融政策について、末廣氏は「アメリカ経済環境だけを見ると成長はしているが、インフレにつながるような加熱感はない」と分析。「基本的には大きな利上げも利下げも必要はない状況だが、現状は中立金利よりやや高めではあるので、1回、2回利下げする可能性を見込んでいる」としました。実際にアメリカのFF金利先物市場も年内2回程度の利下げを織り込んでいる状況です。

いきなり波乱の幕開けとなった2026年ですが、本質的な経済の状況を読み解くためには、日本の解散戦略や米国の政治的混乱といったノイズに惑わされず、労働生産性の向上など、「ファンダメンタルズ」にも目を配る必要性がありそうです。