(ブルームバーグ):外国為替市場で円に対する弱気の見方が一段と強まっている。日本銀行による今月の利上げも持続的な買いにはつながらず、円が抱える構造的な弱さに対し即効性のある打開策はないことが改めて浮き彫りになっている。
JPモルガン・チェースを含む国内外のストラテジストが、依然として大きい日米の金利差や実質金利のマイナス推移、資本流出の継続を背景に、2026年末までに円が対ドルで160円を超えて下落すると予想している。日銀の利上げが緩やかなペースにとどまり、財政主導のインフレリスクがくすぶる限り、円安基調は続く可能性が高いという。
昨年まで4年連続で下落した円の対ドル相場は今年、1%未満の小幅な上昇で年末を迎えようとしている。米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げもあって4月に130円台まで上昇したが、トランプ米大統領の関税政策を巡る不透明感や国内政治情勢の変化に伴う財政リスクの高まりがその勢いをそいだ。現在は155円台と1月とほぼ同じ水準で推移しており、同月に付けた年初来安値の158円87銭もそう遠くない。
JPモルガンの棚瀬順哉チーフ為替ストラテジストは、「円のファンダメンタルズはかなり弱く、来年に向けても大きく改善するとは考えにくい」と話す。26年末の予想を外資系金融機関で最も弱気の164円とする同氏は、来年は景気循環的な要因が一段と円安方向に作用する可能性があり、市場が他国の高金利の長期化を織り込む中で日銀の金融引き締めの効果は限られると指摘した。
オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)を見ると、次回の日銀利上げは来年9月まで完全に織り込まれていない。一方で、インフレ率は日銀が安定目標とする2%を上回った状態が続いており、金利の上昇圧力を強めている。
円にはキャリートレードの再浮上という新たな向かい風も吹く。低金利の円を借りて高金利通貨であるブラジル・レアルやトルコ・リラなどに投資するこの戦略が円の反発を阻む要因となっている。米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、12月9日までの1週間でレバレッジドファンドの円に対する弱気ポジションは24年7月以来の水準に達し、翌週もそのポジションはほぼ維持された。
BNPパリバのアジア新興市場外為ストラテジスト、パリシャ・サイムビ氏は、「来年の世界的なマクロ環境はリスクセンチメントに比較的追い風とみており、通常そうした状況はキャリートレードに有利だ」と語る。同氏は26年末にかけて円が対ドルで160円まで下落すると予想。堅調なキャリー需要に加え、日銀の慎重姿勢や、FRBが予想以上にタカ派的になり得ることが円を安値圏に押しとどめるとの見方を示した。
日本からの対外投資も引き続き円安圧力となっている。投資信託を通じた個人投資家の海外株式の純購入額は今年、10年ぶり高水準となった昨年の9兆4000億円と同程度で、家計が海外資産を根強く選好していることを示す。アナリストらの見方では、この傾向は26年も続き、円の重しになる可能性がある。
より持続的な円安要因となり得るのが企業部門からの資金流出だ。BofA証券の山田修輔主席FX・金利ストラテジストは今月上旬のリポートで、日本の対外直接投資は近年、景気循環や金利差の影響をほとんど受けず、安定したペースで続いていると指摘。特に日本企業による海外企業の合併・買収(M&A)件数は今年、数年ぶりの高水準に達しているという。
円が26年末にかけて165円に達すると予想するのは、ふくおかフィナンシャルグループの佐々木融チーフ・ストラテジストだ。「円安の状況は何も変わっていない」とし、日銀が思い切った利上げに動かず、実質金利が大幅マイナスにとどまっていることが「重要なポイントだ」と話す。
佐々木氏は米国の利下げはほぼ終了したとみており、市場がそれを織り込み始めればドル買い・円売りを促すもう一つの要因になると述べた。
一部の円ウオッチャーは、日銀が金融政策の正常化を進める中で長期的には円が上昇すると予想している。ゴールドマン・サックスは、足元では複数の逆風があるとしつつも、10年後には円は100円に戻ると見込む。
円相場が過去に当局の対応を招いた水準に近づく中、為替介入リスクも再び意識されている。片山さつき財務相を含む日本の政府関係者は、為替の動きが過度で投機的だと警告のトーンを強めている。
ただ、市場では円を押し上げるのに為替介入だけでは力不足との見方が多い。BNYメロンのマーケットストラテジスト、ウィー・クーン・チョン氏は、相場は引き続き不安定だとし、「値動きを『ならす』目的の介入だけで円安の流れを転換させるのは難しい」と分析。短期的な市場の関心は政府が近く示す財政戦略の行方に向かうと指摘した。
--取材協力:近藤雅岐.
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