(ブルームバーグ):金融機関が破綻するたびに「規制・監督当局はどこにいたのか」という疑問が必ず出てくる。シリコンバレー銀行(SVB)やクレディ・スイス・グループの破綻、2008年のサブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローン危機に至る時期を含め、個々の金融機関と金融システム全体の安全性および健全性を確保する責任を当局は果たせなかった。
銀行監督のカルチャーを変えるべきだという専門家の指摘は正しいが、さらに踏み込みたい。優先順位や目標設定の手直しも必要だ。
カルチャーの問題は、経験豊富な実務家グループがまとめた最近の報告書でもテーマに取り上げられた。規制・監督当局は、脆弱(ぜいじゃく)性が明らかでも、経営陣に率直に異を唱えることをためらう傾向がある。金融機関を経営する立場にないため、「踏み込んだ介入という誤り」ではなく、追加の情報を待って判断を先送りする「何もしない誤り」の方を選択しがちだ。
米国の検査官は、米地銀SVBに対し、空席となっていた最高リスク責任者(CRO)のポストを速やかに埋め、金利リスクのエクスポージャーを減らし、金利上昇に伴い保有証券に多額の含み損が発生した段階で、もっと早く自己資本を増強するよう迫るべきだった。スイスの検査官も、クレディ・スイスの取締役会に対し、経営幹部の刷新や収益性回復を目指す信頼できる戦略の策定、より迅速な資本増強、最終的に破綻を招いた不祥事の原因特定を強制すべきだった。
2番目の問題として、検査官はプロセスより成果に重点を置くべきだ。データ管理やモデル検証、外部業者の管理に関する調査結果(米国における「早急な対応を要する事項」など)の提出に没頭し、「木を見て森を見ず」になりかねない。
金融機関の安全性と健全性にとって重要度の低い項目まで完璧を期すあまり、ショックを吸収する十分な流動性と資本を銀行が備えているか、見通しが悪化した場合に経営陣が適切に対応できるかという重要な問いが見えなくなる。
簡潔なルールと適切なインセンティブ
第3に規制が複雑過ぎるため、目標と整合性を高める必要がある。金融システム上で重要な米銀には、ストレステスト(健全性審査)やリスク加重比率、補完的レバレッジ比率(SLR)など、目がくらむほど多くの資本要件が課される。米国のストレステストは、特定の逆境シナリオが収益と資本に与える影響を非常に細かく分析する。それほど詳細にせず、より幅広いシナリオを検証する方が望ましい。
資本規制があまり意味を成さない場合も多い。人為的ミスやサイバー攻撃、不正トレーダーといったオペレーショナルリスク関連の要件は、極めて多様で発生確率が非常に低い事象を対象とし、将来を暗示する兆候となりそうにない過去の経験をベースにしている。その結果、過大な資本需要を生み、銀行サービスのコストを押し上げ、規制の緩いノンバンクセクターに金融活動を流出させている。
金融機関には経営破綻後の事業整理の道筋を事前に示す「生前遺言(リビングウィル)」の作成義務があるが、想定される無数の事象のうち、どれが実際の破綻要因になるか分からない。そのため文書は何千ページにも及び、恐らく誰も把握しきれず、実際の危機でそれほど役立つとは思えない。
4番目として、規制・監督当局と銀行との意思疎通の改善も必要だ。銀行監督当局は目標を明確に示し、金融機関はその意図を受け止めなければならない。健全な銀行経営を双方とも望んでいるが、視点が異なっている。
金融機関は、自行の破綻が金融システム全体に及ぼすコストを内在化して捉える動機付けに乏しく、流動性・資本バッファーを小さく抑えたがる。自行の能力を過信し、破綻リスクを過小評価することも考えられる。銀行監督当局は、1行の破綻がさらに広範な惨事を引き起こし、経済全体を損なう危険を認識しつつ、より広い視野を持たなければならない。
最後に銀行が問題を速やかに是正するインセンティブを高めるべきだ。情報公開も有効と考えられる。例えば米国では、金融機関が非公開の銀行監督当局との合意の下で業務を行っているケースが多い。そこでは、業務上の問題の是正が求められ、規制・監督当局が十分と認めるまでの間、他行や事業部門の買収が制限される。こうした制約を(一定の時間差で)公表すれば、株主にとって銀行の将来性に関わる重要な情報となり、迅速な問題の是正を経営陣に促すことになるだろう。
銀行監督当局は金融機関を逐一細かく管理することはできない。安全性と健全性を目指す明確で簡潔なルールと、適切なインセンティブがあれば、細かい介入は不要になるはずだ。
(ニューヨーク連銀の前総裁、ウィリアム・ダドリー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Five Ways to Stop the Next Banking Disaster: Bill Dudley(抜粋)
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