(ブルームバーグ):ムニューシン元米財務長官の父親で、ゴールドマン・サックスでブロック取引のパイオニアとして名をはせたロバート・ムニューシン氏が亡くなった。92歳だった。
ゴールドマンに33年間在籍した後は美術商に転身するなど、多方面で手腕を発揮した。
ムニューシン・ギャラリーによれば、ロバート氏はコネティカット州の自宅で19日に死去。ギャラリーは同氏が1992年にニューヨークのアッパーイーストサイドに設立した。
ロバート氏は、1969年から76年にシニアパートナーを務めたガス・レビー氏と共に、ゴールドマンを大口証券取引の分野で革新的企業へと押し上げた。
単一の取引で1社当たり数十万株に上ることもある証券の売買で、市場を混乱させることなく買い手と売り手を仲介。必要に応じて、橋渡しとして同社の自己勘定を使うこともある。
ブロック取引として知られるこの慣行は、年金基金や保険会社、ミューチュアルファンドなどの大手機関投資家のニーズに応える重要な手段となった。これら投資家は1960年代に市場で存在感を高め始めた。
こうした大規模な株式持ち高を取引するには胆力と資金が必要だが、両方を兼ね備えている企業は当時ほとんどなかった。1971年、ニューヨーク証券取引所(NYSE)が50万ドル(現在のレートで約7800万円)以上の取引については手数料を個別交渉とする規則を導入した際、ムニューシン氏はその最初の取引を手掛けた。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は78年、ムニューシン氏を「ブロック取引分野で誰もが認める第一人者」と評した。現場主義の管理スタイルから「コーチ」のニックネームも付いた。
息子が米財務長官に
ムニューシン氏の2人の息子、スティーブン氏とアラン氏はいずれも金融の道に進み、ゴールドマンに在籍した。
2016年、スティーブン氏は、ドナルド・トランプ氏が共和党の大統領候補指名を確実にしつつあった時期に、同陣営の全米財務責任者に就任。トランプ氏が民主党のヒラリー・クリントン氏を破って大統領に就任すると、財務長官に起用された。
父親のロバート氏がクリントン氏を含む民主党候補に献金していたことからすると、これは意外な人事だった。
ロバート・エリオット・ムニューシン氏は、1933年9月5日にニューヨークで生まれた。55年にエール大学で学士号を取得。自身が「勲章とは無縁の一兵卒」と振り返る軍務を経て、57年にゴールドマンに入社した。
ゴールドマンではゼネラルパートナーまで昇進し、76年にはトレーディングおよびアービトラージ(裁定)部門の共同責任者となった。ゴールドマンは99年の株式上場時にゴールドマン・サックス・グループに改称された。
引退後に創設したマンハッタンのアートギャラリーでは、ウィレム・デ・クーニングやジャクソン・ポロック、フランク・ステラといった第2次世界大戦後の巨匠の作品を展示した。
2012年にはサザビーズのオークションで、顧客の代理としてマーク・ロスコの絵画を7500万ドルで落札した。
美術誌アートスペースが2015年に掲載した記事によると、ムニューシン氏は「ブロックトレーダーとギャラリー経営の唯一最大の違いは、ウォール街では顧客に流動性を提供していただけで、何を買うべきか売るべきかについて助言することはなかった点だ」と語っている。
同誌はまた、ムニューシン氏について「過去数四半期にわたり、米国のアートを中心に展覧会を開催してきた。その内容は知性と歴史的洞察に富み、数ブロック西に位置するメトロポリタン美術館の作品に匹敵する質を備えていた」と評した。
原題:Robert Mnuchin, Pioneer of Block Trading at Goldman, Dies at 92(抜粋)
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