(ブルームバーグ):米ノースカロライナ州に住むエリン・ゲターさんは5月、所有するテスラに幼い息子が閉じ込められるという災難に遭い、「深いトラウマ(心的外傷)」になっていると語る。電子式ドアの電源が切れたことが原因だ。数週間後、ゲターさんは標準ドアハンドルのホンダ「CR-V」に乗り換えた。
ゲターさんの災難はかなり極端な例の一つかもしれないが、テスラ・オーナーの多くは、故障したドアを開けられないという緊急事態に備え、窓を破壊して脱出するためのガラスブレーカーを購入している。テスラには手動でドアを開けるための装置が内装されているが、モデルによって設置場所が異なるため、ライドシェアの運転手はこの位置を乗客に案内する努力をしている。アマゾン・ドット・コムやエッツィーでは緊急用プルコード(プルストラップ)が出品され、オンライン掲示板のレディットやYouTubeには脱出方法が共有されている。
非営利の消費者団体コンシューマー・リポートでは、電子式ドアの改善を自動車メーカーに求めるオンラインの署名が、3万5000人近く集まった。

テスラが先駆者である電子式ドアと格納式ドアハンドルは、デザイン性の高さで人気があるが、電源が失われると機能も失われる。車内に装備されている手動リリース装置は表示がない、あるいはマットの下、ドアポケットの中に隠れている、また特定の座席位置にしかない場合がある。あるオーナーは「テスラをどうやって使いこなすか、メーカーは教えてくれない」と語る。それさえなければテスラには満足だが「すべてはYouTubeで学んだ」という。
この記事についてテスラにコメントを求めたが、現時点で返答は得られていない。取締役会のロビン・デンホルム会長は10月に行われたインタビューで、テスラは安全性の問題を真剣に受け止めていると発言。手動リリースの位置は多くのオーナーに知られているとしつつ、認知向上とバックアップ機構の設計見直しを進めていると述べた。

ライドシェアやレンタカーにもテスラ車は多い。テネシー州でウーバー運転手として働くチャド・リンカーンさんは、テスラをレンタルしてから2週間のうちに乗客から3回、緊急時にどう脱出するのか尋ねられたという。
「旅客機のキャビンアテンダント(CA)のように、ドアストラップの使い方などを説明した」と話した。
米非営利団体、自動車安全センター幹部のマイケル・ブルックス氏は、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)がドアの標準を新たに定めるべきだと主張する。手動リリースの所在を明確にすることもこれに含むべきだと述べた。

テスラは低電圧バッテリーが切れるとドアが開かなくなる可能性があるが、現行の米安全規則はその場合に手動で作動させる機能を義務付けていない。NHTSAはドアの適切な開閉が不能な場合は安全性の欠陥となり得るとしている。この問題は過去に調査したことがあり、フォード・モーターとフィスカーのリコールに影響したと述べた。
オーナーの中には、安全情報を拡散することを自らの使命としている人もいる。ロサンゼルスに住むブリ・ポリカルピオさんは「視聴必須の安全情報」と題し、モデルYの脱出方法を解説する動画をTikTok(ティックトック)に投稿した。動画は140万回再生された。
テスラのオーナーは自ら、ストラップやコードを用いて手動リリースを使いやすくする工夫をしている。

ノースカロライナ州のゲターさんは、息子が閉じ込められてから救出されるまで、気が気でなかったという。「自分が無力だということを痛感した」と話した。
原題:Tesla Drivers Buy Tools and Cars to Avoid Getting Trapped Inside(抜粋)
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