(ブルームバーグ):世界的な電気自動車(EV)シフトが崩れ始めている。大きな転換が往々にしてそうであるように、当初は緩やかだったが、ここにきて一気に動きが広がっている。
今週は、EV時代がより不確実で対立の多い局面に入ったことを示すシグナルが相次いだ。欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会は、内燃機関車を段階的に廃止する世界で最も野心的な計画の要件を緩和し、メーカーや消費者にガソリン車からの移行について時間的猶予を与えた。15日には、米フォード・モーターが、8年前に全面的に取り組むと宣言した電動化戦略の見直しに関連して195億ドル(約3兆円)の費用を計上する方針を発表した。
こうした後退は、もはや一部の出遅れた企業や懐疑派に限られた現象ではない。比較的新興の勢力から老舗の巨大企業まで、再考の兆しが数カ月前から目立ち始めている。
EVの台頭を世界で最も強く推進してきた米テスラも例外ではない。イーロン・マスク氏率いる同社は、2020年代初めに達成した急成長を維持できるとは限らなかったが、今は単なる減速ではなく、世界販売台数が2年連続で減少する見通しだ。マスク氏の関心は、2万5000ドル(約387万円)の低価格EVよりも、人型ロボットや自動運転タクシーの開発へと移っている。
中国の比亜迪(BYD)は2025年にEV販売台数で世界首位に立つ見通しだが、同社も成長の痛みを感じている。過去3カ月連続で総販売台数が減少しており、EVとプラグインハイブリッド車の生産比率は依然としてほぼ1対1だ。当局が価格に関する慣行について監視を強化していることも勢いを鈍らせている。
EV大手に追いつこうと苦戦したのはフォードだけではない。
競合のゼネラル・モーターズ(GM)は、EV生産能力縮小に伴う16億ドルの特別損失を計上し、今後も同様の措置を取る可能性を示唆した。ステランティスは、ピックアップトラック「ラム」の完全電動車計画を撤回し、燃費基準が緩和された米市場向けにV8エンジン車を復活させた。
欧州でテスラ追撃に最も意欲的だったフォルクスワーゲン(VW)も、ドレスデン工場で電動ハッチバック「ID.3」の生産を今月終了する。VWは、子会社ポルシェがEV路線を見直したことに伴い、47億ユーロ(約8500億円)の損失を計上した。
業界が相次ぐ苦境に直面する一方で、EVシフトそのものが放棄されたわけではない。
GMのメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は投資家に対し、「EVは依然としてわれわれの北極星だ」と述べ、バッテリー技術は内燃機関より本質的に優れていると繰り返し強調している。
原題:The Electric Car Transition Unravels Slowly, Then All at Once(抜粋)
--取材協力:Wilfried Eckl-Dorna、Matthew Miller、Romaine Bostick、Katie Greifeld、Monica Raymunt、Ewa Krukowska、John Ainger、Keith Naughton、Linda Lew、Phoebe Sedgman、Danny Lee、Rafaela Lindeberg.
もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2025 Bloomberg L.P.