米パラマウント・スカイダンスが8日発表したワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)に対する敵対的買収計画には、銀行や億万長者、中東の政府系ファンド(SWF)が参加する。

提出書類によると、米銀大手のバンク・オブ・アメリカ(BofA)とシティグループ、そして、米オルタナティブ資産運用会社アポロ・グローバル・マネジメントがパラマウントに買収資金の提供を約束した。

WBDの企業価値を1084億ドル(約16兆8900億円)と評価する取引で、先週発表されたNetflixによる買収案に対抗する。

パラマウントの計画で、エクイティー(株式)部分407億ドルを支えるのが、ニューヨークの投資会社レッドバード・キャピタル・パートナーズと、今年一時的に世界一の富豪となった米オラクル創業者ラリー・エリソン氏(81)だ。

資金の一部は、サウジアラビアのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)とカタール投資庁(QIA)、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国の「L’imad」、そしてトランプ米大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー氏のアフィニティ・パートナーズが拠出する。

注目されているのは、買収提示額の大きさだけではない。その計画に参画している多くがトランプ氏に近い存在である点だ。親族のクシュナー氏だけではない。

Photographer: Zak Bennett/Bloomberg

エリソン氏はトランプ氏の友人として知られ、パラマウントのデービッド・エリソン最高経営責任者(CEO)の父親でもある。トランプ政権が米国への投資誘致で働きかけてきた国々のSWFも資金を提供する。

パラマウントの提案公表前から、トランプ氏はNetflixによる総額720億ドルのWBD買収計画について、反トラスト法(独占禁止法)上の懸念があると警告していた。

同氏は7日、この問題には自ら「関与する」と記者団に伝え、8日になるとパラマウントもNetflixも「親友」というわけではないと述べ、関与をやや控えめに説明した。

パラマウントのエリソンCEOはWBD取締役会宛ての書簡で、買収資金の調達を支援するパートナー各社は企業統治の権利を放棄することで合意をしていると明らかにし、その資金力は取引完了能力を保証するものだと強調した。

サウジとクシュナー氏

パラマウントがWBDの同意を得ようと、交渉と提案修正を数カ月にわたり繰り返してきた末に至ったものが、今回の資金調達パッケージだ。

提出書類によれば、パラマウントは12週間で計6回の提案を行い、エリソンCEOがビバリーヒルズにあるWBDのデービッド・ザスラフCEOの自宅を訪れる局面もあった。

今月4日に提示された案には、いわゆるつなぎ融資540億ドルをBofAとシティ、アポロが3分割で提供すると記された。エクイティー部分については、WBD取締役会が懸念を示したことを受け、前回案を「抜本的に簡素化」し、全額をエリソン家とレッドバードが保証する形に改めた。

オラクルの株価は9月に急騰。ブルームバーグ・ビリオネア指数によると、ラリー・エリソン氏の資産は1日で890億ドル増という前例のない急拡大を記録し、同氏は一時、世界一の富豪となった。その後オラクル株は下落し、同指数によれば、資産は現在2770億ドル。

パラマウントの提出書類によると、ラリー・エリソン氏の信託は「コミットメントを履行するのに必要な水準をはるかに上回る金融リソース」を有し、オラクル株11億6000万株(約2520億ドル相当)を保有している。

同指数によれば、9月時点でその約4分の1が個人債務の担保としてすでに差し入れられていた。

パラマウントはWBDに対し、幾度となく打診してきた。

今月1日の提案では、エリソン家による118億ドルのコミットメント、湾岸地域の3つのSWFからの計240億ドル、さらにレッドバードおよびアフィニティの拠出が明記されていた。8日提出の書類では、これらの割り当てが変更されたかどうかは直ちには判然としない。

パラマウントによる最新の提案は、サウジのPIFがクシュナー氏と組むのは今年2度目の大型案件となる。アフィニティは9月、ゲーム大手の米エレクトロニック・アーツ(EA)を550億ドルで買収するコンソーシアムの一角を担った。

ブルームバーグは当時、クシュナー氏がPIFとEAを最初に結び付け、数カ月にわたり協議の中心的役割を果たしたと報じた。

今回はQIAに加え、アブダビ政府が全額保有するL’imadも買収計画に参加する。同社が公開した大型案件は1件のみ。10月後半にアブダビの不動産開発会社モドン・ホールディングの経営権を握る株式取得で合意した。モドンの時価総額は150億ドル。

PIFとアフィニティ、L’imadは企業統治の権利や取締役会での役員確保の放棄で合意しており、パラマウントはこれにより対米外国投資委員会(CFIUS)がWBD買収を審査する可能性を回避できるとしている。

原題:Kushner, Apollo, Billionaire Dad Power Hostile Warner Bros. Bid(抜粋)

--取材協力:Jennifer Surane、Katherine Chiglinsky.

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