金融市場
11月28日の米国市場は、S&P500が+0.5%、NASDAQが+0.7%で引け。VIXは16.4へと低下した。
米金利はカーブ全般で金利上昇。予想インフレ率(10年BEI)は2.235%(▲0.5bp)へと低下。実質金利は1.758%(+2.6bp)へと上昇し、長短金利差(2年10年)は+52.0bpへとプラス幅拡大した。
為替(G10通貨)はUSDが軟調。USD/JPYは156前半で一進一退。コモディティはWTI原油が58.6ドル(▲0.1ドル)へと低下。銅は11189.0ドル(+249.5ドル)へと上昇。金は4218.3ドル(+53.1ドル)へと上昇した。
注目点
筆者は、日銀が12月19日の金融政策決定会合において、利上げに踏み切るとの自身の予想に自信を深めた。
12月会合を巡っては、来年度の当初予算編成の最中であることに加え、年末の薄商いの中で金融市場のボラティリティを高めてしまうとの懸念から政策変更が見送りになる可能性が指摘されている。
展望レポートが発表される1月会合まで待てば、1月上旬の支店長会議の情報も反映できるため、「様式美」の観点から1月の利上げが自然であるとの見方はその通りであろう。
ただし、最重要素は為替であろう。その点、USD/JPYが155円超で12月を迎えたことは重要な意味を持つと考えられる。
もちろん後述する植田総裁の挨拶原稿(12月1日10時5分頃公表)に為替に対する直接的な言及はなかったが、春闘の「初動のモメンタム」に関する前向きな情報が記述された後に「利上げの是非について、適切に判断したい」と既に利上げが俎上に上っていることが示される文脈になっており、利上げの地均しに感じられた。
植田総裁の原稿で筆者が注目したのは、以下のとおり(太字斜体)。それに対する筆者の所感を「→」以降に示した。
「現在の実質金利、すなわち名目の政策金利から物価上昇率を差し引いた金利は、きわめて低い水準にある」
「政策金利を引き上げるといっても、緩和的な金融環境の中での調整であり、例えて言えば、景気にブレーキをかけるものではなく、安定した経済・物価の実現に向けて、アクセルをうまく緩めていくプロセスだと考えています」
→わかり易い例え話を用いたのは、金融緩和論者であるとされる高市首相およびその周辺に対して、「利上げ=引き締め」ではないことを強調する狙いがあるように思える。
「最近の米国経済や関税政策を巡る不確実性の低下などを踏まえると、経済・物価の中心的な見通しが実現していく確度は、少しずつ高まってきている」
→10月に利上げを見送った際、米政府機関の閉鎖はその一つの理由であった。政府機関閉鎖の直接的な景気下押し効果が限定的であったとの見方が支配的であるなか、その解除によってデータ蓄積が可能になったため、この一文には、政策判断が幾分容易になったことを示す含意があるように思える。
「今は、企業の積極的な賃金設定行動が継続していくかどうかを見極めていく段階にあり、特に、来年の春季労使交渉に向けた初動のモメンタムを確認していくことが重要」
「賃上げの原資となる企業収益については、先ほど述べたとおり、関税政策の影響を加味しても、全体として高い水準が維持される見通し」
「連合は、来年の春闘に向けた闘争方針を先週発表し、目標賃上げ率を前年と同じ「5%以上」とすることなどを掲げています」
「経営者側も、例えば経団連は、賃上げの「さらなる定着」という方針を強く打ち出しているほか、経済同友会が9月に実施した調査をみても、多くの先が、今年とほぼ同じかそれ以上の賃上げ率を予定しています。先週開催された政労使会議では、政府が、中小企業を含めた賃上げの環境整備に取り組むことを表明しました」
→これら情報はまさに春闘の「初動のモメンタム」であろう。10月末時点で既知のものも含まれているが、企業収益や前向きな賃金設定行動が崩れていないことが示されている。
「日本銀行では、12月18日、19日に予定されております次回の決定会合に向けて、本支店を通じ、企業の賃上げスタンスに関して精力的に情報収集しているところです」
→「本支店を通じ」との文言挿入は、1月の支店長会議を待たずとも、初動のモメンタムを確認することが可能であるという、含意があろう。支店からのヒアリング情報は常に吸い上げられているため、支店長会議の日程に縛られることなく政策判断ができるというメッセージだろう。
「決定会合においては、この点を含めて、 内外経済・物価情勢や金融資本市場の動向を、様々なデータや情報をもとに点検・議論し、利上げの是非について、適切に判断したいと考えています」
→利上げの議論が既に始まっていることが示された。高田委員、田村委員に続き、最近では増委員、小枝委員、野口委員が利上げに肯定的な発言をしている。12月の利上げが近づいているように思える。
※なお、記事内の「図表」に関わる文面は、掲載の都合上あらかじめ削除させていただいております。ご了承ください。
※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 藤代 宏一
