(ブルームバーグ):自動車ローン会社トライカラー・ホールディングスの自動車ローン数百億ドルを債券化した、ウェアハウスファシリティーと呼ばれる与信枠は、世界有数の名門投資銀行であるJPモルガン・チェースが運営していた。JPモルガンは数十年にわたり、さまざまな企業が発行する資産担保債務のための枠組みを構築・管理してきた実績を持つ。
ブルームバーグ・ニュースによると、トライカラーの7億7000万ドル(約1200億円)の与信枠を支援していたウォーターフォール・アセット・マネジメントのジュニアアナリストが、トライカラーの担保の扱いに問題があることを最初に発見した。この指摘を受け、再調査したJPモルガンのバンカーが即座に融資を打ち切り、トライカラーは破綻した。
経験豊富なプロが見落とした問題を、新鮮な視点を持つ第三者が発見した事例は、ここ数週間だけで他にもある。あらゆる職場から初級職が減り、人工知能(AI)の擁護者がジュニア銀行員を代替するソフトウエアを開発できると考える時代に、こうした事例は、組織に常に新たな人材を確保し続けることの重要性と、変化のないプロセスが慢心を生む危険性を改めて想起させる。
ロスチャイルド・アンド・カンパニー・レッドバーンに勤めるドミニク・ボール氏(26)は今年数か月にわたり、フィンテック企業のファイサーブに売り評価を下していた唯一の株式アナリストだ。その後、同社は10月下旬に業績予想の大幅な下方修正を発表し、株価が44%急落した。下落は今も続いている。

当時、ファイサーブはボール氏の売り推奨に反論。データに疑問を呈し、誤りを指摘しようとした。筆者はファイサーブに対する唯一の売り推奨について、同氏が自身の判断を疑ったことはあるか尋ねた。ボール氏は、ファイサーブ株が20%下落した時点で、同社が「再建に長い時間を要する大企業」のような存在になるのか、「迅速に方向転換できる新興フィンテック企業」のようになれるのか自問したという。そして、「明らかに前者だと判断し、さらに賭けを倍増させた」と振り返った。
生産的な無知
金融業界で企業に誤りを認めさせたり、人事や製品、慣行の変更を迫ったりするのは、往々にして調査型空売り業者や外部アクティビスト投資家だ。彼らの登場が歓迎されるのはまれで、暴かれる事実が痛みを伴うことも多い。
より広く見れば、私たちは、成功した破壊者や異端者を称賛する。米アップル共同創業者の故スティーブ・ジョブズ氏は、人物としては厄介者だったという話もあるが、個人用コンピューティングの世界を2度も塗り替えた。劇作家ジョージ・バーナード・ショーが「人間と超人」で述べた通り、進歩は理不尽な人間に依存するのだ。
学術誌「MITスローン・マネジメント・レビュー」に今年寄稿したシモーネ・フェリアーニ氏とジーノ・カッタニ氏によれば、この現象を表す「集中的な純真さ」という用語がある。専門家が取るに足らない、または解決不能と見なす問題に対して、既成概念にとらわれない外部者が「生産的な無知」で解決する構図を指す。
企業や個人が例外的な細部の重要性を把握するのは、多くの場合困難だ。ウェアハウスファシリティーで類似した大量の短期担保付ローンを絶え間なく処理していれば、いとも簡単に注意を払わなくなるだろう。ランダムな品質監査は役には立つが、悪い兆候を必ず捉えられる保証はない。
AIがこの問題を解決できるかは不明だ。従来のAIは、決済詐欺対策などには優れている。膨大なデータセットを監視し、資金が循環したり複数の口座を急速に移動したりする既知の不正パターンを識別できるからだ。だが、新たな手口や未見の犯罪を判断する能力は、必ずしも備わっていない。
では貸し手や企業は何ができるのか。MITスローン誌に寄稿したフェリアーニ氏らは、成功したイノベーションの多くは、創造的な外部者のアイデアと、内部者の知見を組み合わせた時に生まれると指摘した。集団思考を最小限に抑える厳格な取り組みも推奨している。
ボール氏がファイサーブを評価した際も、最も重視したのは足で稼ぐことだった。顧客と話し、自らも潜在顧客を装って話を聞いた。ボール氏は「顧客の現場で何が起きているか、投資家層がどう考えているかを知るのが好きだ。両者の間に大きな隔たりがある時、私の頭の中でひらめきが生まれる」と語った。
運営上の問題を発見したい企業にとっては、管理職やスタッフを定期的に異動させ、「集中的な純真さ」の視点を業務に取り入れることが一つの手段となる。だが、何よりも効果的なのは、変化に乏しい長年の業務で視野が狭まっていない、新しく賢い若者を採用し続けることだ。
(ポール・デービス氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Tricolor, Fiserv Show Value of Junior Bankers: Paul J. Davies(抜粋)
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