(ブルームバーグ):「本当に素晴らしい」。トランプ米大統領は、中国の習近平国家主席との首脳会談をそう評した。世界の二大経済大国による貿易協議を終えた帰途、大統領専用機内で「0から10点の評価で、10点が最高だとすれば、今回の会談は12点だ」と胸を張った。
トランプ氏のこの自己採点は、自身の関税政策がもたらした世界貿易の混乱をこれ以上深めなかったという点では、ある程度妥当かもしれない。しかし、実質的な成果という観点からすれば、米国にとってはせいぜい「5点」にとどまる。両国の根本的な対立を解く枠組みが示されたわけではない。1年間の休戦合意のわずかな内容から見えてくるのは、関係の一時的安定と、中国が重要分野で依然として米国に対する強い交渉力を保っているという現実だ。
ブルームバーグ・オピニオンのカリシュマ・バスワニ氏が予測していた通り、トランプ氏は中国製品への追加関税(最大100%)の発動を見送り、中国はレアアース(希土類)輸出規制の拡大を1年間延期し、米国産大豆の購入を再開することで応じた。
大豆購入は脇役にすぎない。ベッセント米財務長官によると、中国は今後3年間にわたり、年間最低2500万トンの米国産大豆を購入することで合意した。中国はこれまで米国からの輸入をほぼ停止し、ブラジルなどからの調達に切り替えていたため、昨年だけでも120億ドル規模の輸入額が失われ、米国農家に打撃を与えていた。
これは中国にとって大きな譲歩ではなく、トランプ政権にとっても大きな勝利ではない。事実上、報復制裁前の状態に戻ったにすぎない。コムストックのシニア穀物・畜産アナリスト、ブライアン・グリート氏は、年間2500万トンという量は、中長期的に見れば「基本的に通常の水準への回復にすぎない」と述べた。
今回の協議の核心はレアアースだった。中国はこの分野でほぼ独占的な地位を占め、トランプ政権の関税攻勢に対する報復や交渉のカードとして利用してきた。
中国はこの力を十分に理解している。だからこそ今回、レアアース輸出規制の拡大を1年間凍結するという譲歩を示した。もっとも、これは中国が依然として米国への影響力を維持できる立場にあることを裏づけてもいる。トランプ氏自身も、その現実を暗に認めていたように見える。「1年間の合意だが、繰り返し延長されるだろう」と同氏は述べている。
ユーラシア・グループの中国部門責任者デービッド・ミール氏は「2025年初めと比べると、中国は現在の状況により満足しているはずだ」と指摘。中国はトランプ関税に耐えて「レアアース輸出規制という強力な交渉手段を手にした」と分析する。
レアアースの供給確保をめぐる競争は世界的に広がり、中国の独占が長く続くとは限らない。主要7カ国(G7)は近く、重要鉱物の協調体制を発表する見通しだ。これは供給協定を通じて中国の支配力に対抗する狙いであり、G7は中国が市場を操作していると見ている。
その点では、習氏にも一定のリスクはある。しかし、トランプ氏が抱えるリスクほど大きくはない。トランプ氏が「繰り返し延長されるだろう」と期待するのは、極めて危うい賭けだ。米国側が中国を過度に刺激する行動を取らないことが、その前提条件となるからだ。
この1年の猶予はむしろ、米国経済の頭上にぶら下がるダモクレスの剣(常に危機が頭上にあることを示すギリシャ神話の故事)のようにも映る。トランプ氏が言う「本当に素晴らしい合意」には到底見えない。むしろ、トランプ氏が中国との交渉で分の悪い立場に立たされているように見える。
(ロバート・バージェス氏はブルームバーグ・オピニオンのエグゼクティブエディターです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:The US-China Trade Truce Is Not ‘Truly Great’: Robert Burgess(抜粋)
コラムニストへの問い合わせ先:New York Robert Burgess bburgess@bloomberg.netエディターへの問い合わせ先:Candice Zachariahs czachariahs2@bloomberg.net翻訳者への問い合わせ先:New York 宮井伸明 nmiyai1@bloomberg.net
もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2025 Bloomberg L.P.
 
   
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    