(ブルームバーグ):国内最大の自動車関連の展示会「ジャパンモビリティショー(JMS)2025」が30日、東京ビッグサイトで開幕する。電気自動車(EV)市場の伸びが鈍化する中、EV一色だった2年前の前回からは様変わりする。
トヨタ自動車は今回、最高級車「センチュリー」、高級車レクサスの「LS」、乗用車「カローラ」など数多くのコンセプトカーを展示するが、そのほとんどについて動力源を明らかにしていない。初めて一般に公開する「ランドクルーザーFJ」はガソリン車だ。
前回は5台のEVコンセプトカーを展示していた日産自動車の今回の目玉は高級ミニバン「エルグランド」の新型車だ。26年夏に発売を予定し、日産独自のハイブリッドシステム「e-POWER(イーパワー)」を搭載する。
前回JMSでEVのコンセプトカーを前面に出していた両社の変化は、補助金の縮小などに伴い成長の勢いが落ちてきたEV市場の現実を反映している。ブルームバーグNEFが6月に発表したEVの長期見通しによると、EVとプラグインハイブリッド車(PHV)の販売は今後も拡大するものの、伸び率は鈍化していくと見込まれている。
ブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達生シニアアナリストは、自動車メーカー各社はEVやPHVの方向にいったんかじを切ったものの、普及ペースが想定を下回ったことを受けて「かじの切り直しになっている」と話す。
実際、自動車メーカーの間ではEV向けの投資や販売目標を引き下げる動きが広がっている。ホンダは5月、電動化やソフトウエアなどに向けた投資を当初の10兆円から7兆円に減額すると発表。韓国の起亜自動車は4月、30年のEV販売目標を引き下げ、ハイブリッド車(HV)を上方修正した。
実需に寄り添う
トヨタの佐藤恒治社長も5月、23年4月に発表した26年にEV販売を150万台とする目標を見直す考えを示した。「各地域でバッテリーEVに対する実需やペースがリアリティある形で見えてきた」ためという。
佐藤社長は29日、JMS会場でのブルームバーグなどの取材に、「規制やルールが商品を変えるのではなく、お客さまが欲しいと思うものをちゃんと供給するのがわれわれの仕事のあり方だと思っており、実需に寄り添うのが大事だ」と指摘。その実需が変化しているため、「ペースコントロールはしていかなければいけない調整局面だ」と続けた。
トヨタはEVやハイブリッド車を含めた幅広い選択肢を追求する「マルチパスウェイ」戦略を掲げており、佐藤氏はその考え方に2年前と今とで違いはないとした。EVも選択肢の1つとして「本気でやっている」と強調し、手を緩めているつもりはないとも述べた。
業績の悪化も相まって日産でもEVの計画修正を余儀なくされている。同社は5月に北九州市に計画していたEV向け電池工場の建設を断念すると発表したほか、ミシシッピ州のキャントン工場で計画していたEV生産計画を凍結した。
日産でチーフ・テクノロジー・オフィサーを務める赤石永一取締役はインタビューで、「特に米国市場はEVが今いろんな意味で思ったよりスピーディーになっていない、これは事実だと思う」と述べた。米国ではトランプ政権が前政権が導入したEVの購入補助を9月に打ち切っている。
ただ、赤石氏は電動化の流れは「止まらないし、止めるべきではない」としてEVとHVを両輪として商品を投入していく考えを示した。長期的にはEVシフトの流れは続くとみられ、EV技術の開発などは引き続き強化していくという。
BYDも軽EV
EV不毛の地とも呼ばれる日本市場においても今後EVシフトが加速する可能性もある。日本で人気の軽自動車の分野でEVの選択肢が増加するためだ。
今回のJMSでは中国の比亜迪(BYD)が26年夏に導入を予定する軽EVのプロトタイプを発表し、注目を集めた。国内勢ではスズキも26年度に量産化を目指す軽EVのコンセプトモデルを初公開した。ホンダも9月に「N-ONE e:(エヌワンイー)」を発売しており、消費者にとっては選択肢が広がることになる。
自動車調査会社カノラマの宮尾健アナリストは、軽の購入層が重視するのは燃費の良さや車両価格の安さなどの経済性だと話す。しかし、軽EVにおいてはそれほど激しい価格競争にはならない可能性もある。
中国などで価格競争を仕掛けてきたことで知られるBYDだが、日本法人の東福寺厚樹社長は軽EVでは事情が異なると話す。
東福寺氏は記者団に対し、中国という巨大市場で販売し、金型の費用も全て償却しているようなモデルは限界利益で販売するといったことができると説明した。一方、日本専用車である軽EVは固定費も回収しながら事業を回していく必要があり、単純に価格を下げることで競合他社を出し抜いて市場を一気に取るような戦い方はできないと話した。
--取材協力:堀江政嗣.
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