(ブルームバーグ):トランプ米大統領の新たな通商攻勢は、日本と韓国に高いコストを強いている。両国には交渉の余地がほとんど与えられないまま、関税引き下げと引き換えに、米国に数千億ドル規模の投資を約束するよう圧力を受けた。
こうした要求は、日本と韓国が対米貿易黒字国の上位に長年位置していたことが背景にある。
日韓は7月に投資の約束と引き換えに、貿易合意の成立にこぎ着けた。だが、この枠組みは複雑で、その後数カ月にわたって投資の規模や範囲、構造を巡り米国側との論争が続くことになった。両国の合意は10月下旬のトランプ氏のアジア歴訪の際に締結された。

日本は何に合意したのか?
日本は政府系資金を通じ、最大5500億ドル(約84兆円)を米国に投資することで合意した。
両国が9月初旬に署名した覚書によると、トランプ大統領が承認した投資プロジェクトに対して45日以内に日本が資金を提供しない場合、米国は関税を再び引き上げることを検討する権利を有する。トランプ氏は、ラトニック商務長官を長とする投資委員会の勧告に基づき、プロジェクトを選定する。
投資委員会は、別の協議パネルを通じて日本側の意見をくみ取る。プロジェクトの実施期限はトランプ氏の大統領任期がまさに終わる2029年1月19日に設定されている。
米国側は日本がこの合意を誠実に履行し、資金提供を怠らない限り、関税を引き上げる意図はないとしている。裏を返せば、資金を提供しなければ再び関税が引き上げられる可能性がある。
当初の条件では、投資で得られる利益の最終的な分配は米国が9割、日本が1割とされている。
韓国は何に同意したのか?
韓国は3500億ドルの対米投資を約束しており、そのうち1500億ドルを造船業向けに、さらに2000億ドルを包括的な投資枠組みの一部として拠出する。この枠組みは、日米合意の要素を反映したものとなっている。
10月29日の最終合意内容では、韓国の年間投資額は200億ドルに制限される。これは韓国銀行(中央銀行)が外国為替市場を不安定化させることなく維持可能としていた規模。合意には、韓国が20年以内に投資元本を回収できない場合に利益配分の調整を認める条項も盛り込まれた。さらに、確実なキャッシュフローが見込める商業的に実現可能な案件のみを実施する条項も設けられている。
最終合意までに時間を要したのは、韓国当局が自国経済への過度な負担を避けつつ、受け入れ可能な条件を模索したためだ。9月には、米ジョージア州にある現代自動車グループとLGエナジーソリューションの電池工場で数百人の韓国人労働者が米移民当局の摘発で拘束され、韓国国内で反発が広がったことも、緊張を高めていた。
なぜ日本と韓国は巨額の投資に合意したのか?
大型投資を約束したことで、両国はトランプ氏が一時示唆していた25%でなく、関税を15%とする合意を取り付けることができた。ただし、自動車や自動車部品に対する個別の関税は、トランプ氏の大統領令が出るまで25%のまま残った。
業界の試算によると、日本は国内総生産(GDP)の約10%を自動車業界が稼ぎ出し、全労働力のおよそ8%が関連業界で働いている。
韓国にとって輸出は経済の中核的役割を果たしており、昨年はGDPの40%強に相当した。韓国にとって米国は昨年、中国に次ぐ第2の輸出先で、全輸出の18.7%を占めた。
約束された投資の規模は対GDP比でどれほど大きいのか?
日本にとって、約束された投資額は2024年末時点のGDPの約14%に相当する。必要となるドルは、外貨準備の半分弱に当たる。
韓国が背負う相対的な負担は、日本よりもはるかに重い。約束された投資額は24年時点のGDPの約20%に及び、外貨準備の80%前後に相当する。
日本の対米貿易黒字は昨年で685億ドルと、7番目に大きかった。貿易黒字がこの先も変わらないと仮定すれば、日本が約束した投資額の規模は、トランプ氏の2期目の間に日本が計上するであろう貿易黒字額合計のおよそ2倍になる。韓国の対米貿易黒字は日本よりやや小さく、660億ドルだった。
日本が検討している具体的なプロジェクトの内容は?
日本の経済産業省は実際に投資に向けて動き始めていることを示すため、トランプ氏の訪日時に対米投資に関心を示している企業とプロジェクトの一覧を公表した。プロジェクトの件数は20を超え、ソフトバンクグループやウェスチングハウス、東芝などが名を連ねた。
経産省によると、これらの企業はエネルギーや人工知能(AI)、重要鉱物などの分野での合弁事業を模索している。
米国との関税交渉を率いた赤沢亮正経産相によれば、それぞれのプロジェクトの規模は3億5000万ドルから最大で1000億ドルに上るものもあり、総額約4000億ドルに達する可能性がある。
経済や金融市場に対する潜在的な影響は?
市場関係者の間では、日本から米国への投資急増は円相場を下押しするだろうとの見方が広がっている。
一方、これらの投資は日本が既に保有するドルを主に使い、外国為替資金特別会計を通じて実施するため、為替市場への影響はあったとしても最小限だと、赤沢氏は説明している。
日本は米国にとって既に最大の投資国で、新たに資金をつぎ込めば企業はますます日本からの輸出でなく米国での生産を選ぶようになり、日本の産業空洞化が進むとの懸念がある。こうした懸念に対し、政府は対策を検討中だ。
韓国では、年間投資上限やセーフガード条項の明確化を歓迎する声も一部に上がっている。これらの措置が財政・為替リスクの抑制に資すると期待されているためだ。ただし、3500億ドルという韓国史上最大級の投資約束が、同国のソブリン格付けや資本流出、他地域への投資余力に影響しかねないという長期的な懸念は根強く残っている。
原題:How Trump Got a $900 Billion Promise From Japan and South Korea(抜粋)
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