台湾当局はトランプ米大統領に近いポッドキャスターやインフルエンサーらに接触している。トランプ氏が中国との協議の中で台湾の利益を損なう可能性があるとの懸念を強めていることが背景だ。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。

トランプ氏は米中間の貿易摩擦を解消するため、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれる韓国で、中国の習近平国家主席と30日に会談するが、その際に台湾が議題に上る可能性が高いと述べている。

中国はホワイトハウスに対し、台湾独立に「反対する」と公式に表明するよう求めていると、ブルームバーグは先月報じた。これが実現すれば中国にとって大きな外交上の成果となる。

台湾の頼清徳総統および政府高官らはここ数カ月、保守系の米メディア関係者とのインタビューを相次いで受けており、いわゆるMAGA派に向けて台湾の安全保障上の課題を訴えている。

MAGA(Make America Great Again=米国を再び偉大に)とは、トランプ氏の掲げるスローガンだ。こうした場で、台湾側は米台関係を支える共通の民主主義的な価値を強調し、貿易や投資面での一層の連携を促している。

非公開情報だとして匿名を条件に語った関係者によると、これは、トランプ氏が関心を寄せる項目のリストで台湾の優先度を高めることを狙った戦略だ。

台湾の頼清徳総統

米国と正式な外交関係のない台湾の総統は、米大統領と対面で接触することが制限されている。こうした取り組みは、台北を拠点とする一部の当局者を驚かせており、ある当局者は、頼氏がトランプ氏との接触を急ぐ強い意図を感じさせると述べた。

ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のアダム・ファラー氏は、「頼氏が米保守系メディアに総力を挙げて働きかけているのは、トランプ氏の意向に対する台湾政府の不安の高まりを示している」と指摘。

「台湾積体電路製造(TSMC)による数百億ドル規模の対米投資でさえ、ワシントンにおける台湾の立場を明確に強化したとは言い切れない」と語った。半導体製造で世界最大手のTSMCは最近、総額1000億ドル(約15兆3000億円)の新たな投資を表明している。

台湾外交部(外務省)の蕭光偉報道官は問い合わせに対し、台湾と米国の関係は「超党派の支持という基盤」の上に築かれていると述べ、「台湾は一貫して米国の主要二大政党双方と幅広く交流し、さまざまな分野で友好関係の構築に努めている」と説明した。

変心の兆し

トランプ政権のある当局者は、米政府は台湾当局に対しリベラル派のエリートではなく、一般的な米国民と対話できる新興メディアに関与するよう促してきたとするコメントを出した。

同当局者によれば、これはトランプ政権の政策に不安があることを意味するものではなく、台湾と米国は安全保障とテクノロジー、製造、教育の分野で深いパートナー関係にあるという。

頼氏は最近、米国の保守系ポッドキャストに出演。今月上旬に米国の保守系ラジオ番組「The Clay Travis and Buck Sexton Show」に出た際には、台湾を支援することがトランプ氏のノーベル平和賞受賞につながると訴えた。

もし「台湾が併合されれば」中国は米国との競争においてさらに強大になると踏み込んだ発言を行い、「最終的にはこれは米国自らの国益にも影響する」と論じた。

この番組の司会者は収録前後の約1週間、台湾に滞在したという。番組内で台湾の治安水準を称賛し、犯罪率の低さをシカゴなど米国の都市と比較した。

その数日後、同じポッドキャストにトランプ氏の次男エリック・トランプ氏が出演したが、中国や台湾に関する議論はなかった。

ワシントンでは、台湾の事実上の駐米大使である兪大㵢氏がこうした広報活動を主導している。

兪氏はトランプ氏の元首席戦略官スティーブ・バノン氏のポッドキャスト「War Room」で、「外交の最前線では非常に激しい戦いが繰り広げられている」と述べた。

その後も、兪氏は米テレビ局FOXニュースに出演したほか、元米海軍特殊部隊(SEALs)のショーン・ライアン氏とも会食した。ライアン氏が昨年トランプ氏をインタビューした動画は約460万回再生されている。

一方で、トランプ氏の台湾支持が、揺らぎ始めている可能性がある。以前は同氏のディール(取引)を重視する外交のスタンスを抑えていた対中強硬派が、今や影響力を失いつつあるためだ。

頼氏は7月、米国がニューヨークでの乗り継ぎを認めなかったことを受け、予定していた外遊を中止。その数週間後、トランプ氏は台湾向けの4億ドルを超える軍事支援パッケージを停止した。これは、中国が米国に対し、台湾独立に反対する圧力を強めていた時期と重なる。

中国側の求めに応じるかのようにトランプ氏が変心すれば、米国が数十年にわたり続けてきた「戦略的曖昧さ」が覆される。

米国務省の報道官は声明で、米国は「一つの中国」政策を維持し、台湾海峡の平和と安定を守ることに引き続きコミットしていると表明した。

「現実的に管理」

中国は台湾を自国領土の一部と見なし、米台間の公式交流を一切認めていない。2022年に当時のペロシ米下院議長が台北を訪問すると、中国は台湾本島上空にミサイルを発射し、過去に例のない規模の軍事演習で台湾を包囲した。

16年の米大統領選を制したトランプ氏は大統領就任前に当時の台湾総統、蔡英文氏と電話会談を行い、数十年にわたるデリケートな外交的な慣例を破ったが、それ以降、台湾の総統と直接話をしてはいない。

頼氏が率いる与党、民主進歩党(民進党)は政策的にはトランプ氏のMAGA路線とはほとんど共通点はない。

民進党はアジアで初めて同性婚を合法化するなど、リベラルな社会的価値観を推進してきた。このため、MAGA派との接触では時に気まずい場面も見られる。

10月には米保守政治活動会議(CPAC)のマット・シュラップ議長が、台湾国防部(国防省)系の研究機関が主催する台北安全保障対話で基調講演を行うため招かれた。

シュラップ氏は約30分の講演のうち7分近くを米国の「ウォーク」(社会主義に目覚めた)カルチャーや不法移民を非難する内容に費やし、一部の出席者を驚かせた。

同氏がイベントをMAGA集会のように扱っていると懸念を示す参加者もいた。シュラップ氏は今年になるまで台湾当局からCPACに接触はなかったとブルームバーグ・ニュースに語った。

国際危機グループの北東アジア担当シニアアナリスト、ウィリアム・ヤン氏によると、台湾は現在、進歩的なデモクラシーの維持と、トランプ氏との関係強化という現実的課題との間でバランスを取ろうとしている。

こうした試みが台湾内で批判を招く可能性があるが、「不確実性が高まる中で米国との関係を現実的に管理しようとする台湾政府の姿勢を反映している」と同氏はみている。

原題:Taiwan Is Courting MAGA Influencers to Get Trump’s Attention(抜粋)

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