(ブルームバーグ):トランプ米大統領が中国に対し貿易戦争を仕掛けてから半年が経過したが、中国の輸出は依然として力強さを保っている。米国が課す55%の関税にもかかわらず、中国製品の多くが引き続き不可欠な存在であることが浮き彫りになっている。
現在も毎日約10億ドル(約1520億円)相当の中国製品が太平洋を渡り米国に輸出されており、その金額は9月に前月比で増加。過去半年間に貿易総額は2桁の減少を記録したものの、一部品目では2024年比で中国の輸出が増加しており、米中間の緊張が高まる中で堅調な動きとなっている。
こうした状況が裏付けているのは、いわゆるトランプ関税が米企業の輸入行動を抑制する効果は限定的だということだ。特にレアアース(希土類)やエレクトロニクスなど、中国が優位を保つ分野では、少なくとも短期的には代替が難しい構造となっている。
ただし、トランプ氏が繰り返し示唆しているように、関税をさらに引き上げた場合には状況が変わる可能性もある。
ブルームバーグのエコノミスト、舒暢氏と曲天石氏によれば、「世界のサプライチェーンで中国が強い地位を得ていることが、短期的に米国の輸入企業との交渉で一定の力」を与えている。両氏はまた、他国が米国向け供給国として中国にすぐ取って代わることは難しいとし、「生産の再編には時間がかかる」との見方も示した。
こうした状況により、中国共産党の習近平総書記(国家主席)は11月に期限を迎える90日間の関税休戦の延長を目指す協議で、より大きな交渉力を握ることになりそうだ。
相互依存
7-9月(第3四半期)には1000億ドル超の中国製品が米国に到着し、中国政府が年間成長目標の達成を維持する助けとなったほか、対米貿易黒字を670億ドルに押し上げた。
アジア歴訪を控えたトランプ氏は21日、韓国で習氏と来週会談することができれば「グッドディール(良い取引)」に至ると見込んでいると述べる一方で、その会談が決裂する可能性もあると警告。トランプ氏はレアアースと合成麻薬フェンタニル、大豆を中国との交渉での主要争点として挙げている。
世界の二大経済大国である米国と中国の結び付きは、中国がグローバル供給の主導権を握る製品にとどまらない。米国の製造業に不可欠な磁石や、広く使われる医薬品の化学原料などもその一例だ。
ブルームバーグが中国税関のデータを分析したところ、対米輸出上位10品目のほぼすべてが前年同期比で減少する中で、電子たばこの輸出は増加。米国のEバイク(電動自転車)需要も堅調で、中国企業は7-9月期に5億ドル超を輸出し、前年同期をわずかに上回った。
精製銅カソードの輸出額は、ほぼゼロから過去3カ月で2億7000万ドルへと急増し、電気ケーブルも87%増の4億500万ドルとなった。オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)の邢兆鵬シニアストラテジスト(中国担当)は「双方が相互依存を減らす可能性はあるが、ゼロにはできない」と述べた。
デカップリング
トランプ政権が導入した関税措置にほころびがあり、コストを抑えることで一部の貿易を可能にしている可能性がある。
邢氏によると、米国の輸入業者は第三国での1次販売に基づき通関価格を申告し、米国の港湾到着時に価格を引き上げることで、低めの関税率の適用を受けられるという。
メキシコやベトナム経由の積み替えにより、全額の関税を支払っていない企業もあるとみられる。「抜け穴は多い。米国の税関にはそれを取り締まるだけの人員がいない」と邢氏は指摘した。
7-9月期には、中国から米国向けにスマートフォンやノートパソコン、タブレット、電子部品など約80億ドル分が輸出された。前年同期の半分以下に減ったものの、高関税下としては依然として大きな規模だ。
一方で、米国が少額貨物の無税輸入を認めていた「デミニミス」制度を撤廃した後も、米国の消費者はSHEIN(シーイン)やPDDホールディングス傘下の「Temu」といった電子商取引プラットフォームから数十億ドル規模の買い物を続けている。
中国のデータによると、トランプ政権が5月に抜け穴をふさいで以後も、これら小口貨物の対米輸出は関税率54%の下で約54億ドルに達した。
それでも、中国と米国の貿易関係は今後縮小していく見通しだ。トランプ氏は米国の製造業再興を目指し、重要産業の国内回帰(オンショアリング)を最優先課題としている。今年の中国からの対米輸出は3200億ドルを下回り、トランプ政権1期目の貿易戦争が始まる前の17年水準に戻った。
ゲーム機の対米輸出は急減し、任天堂やマイクロソフトといった企業は、高関税を回避するためにベトナムなどから出荷している。また、米国の消費者はテレビを他国製に切り替えており、中国からの液晶テレビ輸出額は急減した。
国際通貨基金(IMF)によれば、今年の米中貿易への打撃はトランプ政権1期目をすでに上回っている。今月の報告書で「米中2国間貿易のデカップリング(切り離し)は、18-19年の関税ショック時と比べてよりハイペースで進んでいるようだ」との見解を示した。
原題:China’s $1 Billion of Daily US Exports Show Xi Bargaining Power(抜粋)
--取材協力:Andy Lin (News)、Qizi Sun、Fran Wang.
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