自民党と公明党の連立政権解消が決まり、国会での高市早苗自民党総裁の首相指名の行方や新政権の枠組みが一気に不透明になったことで、10日夕の日本市場では株価指数先物が下げ幅を拡大し、為替市場では円が対ドルで一時上昇基調を強めた。

当面の政治空白や政策遂行の遅滞リスクに投資家は警戒感を持ち始めている。緩和的な財政・金融政策志向による景気押し上げを期待し、高市氏の総裁選勝利後に広がった円売り・株式買いを中心としたいわゆる「高市トレード」が巻き戻される可能性がある。

【市場関係者の見解】

みなと銀行の苅谷将吾ストラテジスト

  • 野党が首相候補を決めて高市氏でなくなると、ドル・円は「高市トレード」による上昇分が全部吐き出されることになりそう
    • ただ、為替の動きを見ると、市場はまだ高市氏が首相にならないリスクは織り込んでいない印象
  • 野党と連立するのか政策ごとの閣外協力なのか、協議を見極めていく。ドル・円の上値はいったん抑えられる
  • 国民民主党が連立に入るか閣外協力になれば、高市トレードが意識されていくだろう

ソニーフィナンシャルグループの森本淳太郎シニアアナリスト

  • リスクオフの円買いもあって、円が買い戻されているが、本来は円買い材料ではない。むしろ政治的な混乱でフランスのようにことになると、むしろ円安要因だろう
  • そのせいでドル・円は下がり切っていない。結構難局になるが、今後交渉の余地があるのかどうかを含めて見極めたい

SMBC信託銀行の山口真弘投資調査部長

  • 日本株は高市氏の政策期待を背景に上がってきた。公明党の連立離脱で実現の可能性についてかなり不透明感が高まった
  • 週明けの日経平均株価は4万6500円くらいまで下げ余地がありそうだが、政策への期待感が全て剥げ落ちることはない。調整後は公明党以外の野党との連携や首相の指名などを様子見する展開になる
  • 高市氏が主導権を握って野党と協力できるなら、人工知能(AI)や宇宙、半導体分野の政策への期待は残るだろう。世界的な流れもあり、防衛費も積み増すという動きになるのではないか

ガマ・アセット・マネジメントのグローバル・マクロ・ポートフォリオ・マネジャー、ラジーブ・デメロ氏

  • 長年のパートナーだった公明党の離脱には驚いた。自民党が新たなパートナーをどう見つけるのか、まだ理解に苦しんでいる
  • 新たな不確実性は日本株に重くのしかかる。自民党は譲歩を強いられ、首相候補の高市氏の経済政策が弱体化する可能性
  • 日本株への確信は変わらないが、政権の見通しが立つまで調整局面が続く

MCPアセット・マネジメントの大塚理恵子ストラテジストは

  • 日経平均は総裁選前の4万5000円まで下落する可能性がある。今後の政権運営がより難しさを増したことは間違いない
  • 高市氏が勝利してから期待先行で相場は上げており、その分が剥げてしまう可能性がある
  • 高市氏が掲げる政策を国会で通すのがより厳しくなり、最悪のシナリオとしては高市氏が首相に任命されないケースを市場は見始めている可能性
  • 米政府閉鎖が長引いており、悪材料が重なる

ピクテ・ジャパンの田中純平投資戦略部長

  • 自民党は維新、国民のいずれか1党と連立を組めたとしても、衆参両院で過半数に至らない。このため、「サナエノミクス」の可能性は大きく後退したと言わざるをえない
  • 総裁選以降、活発化していた「高市トレード」も巻き戻しを余儀なくされる
  • 政局次第だが、このままの状況であれば連休明けの日経平均は下落する展開を想定。海外投資家は連休中に先物の売りで対処する

ロンバード・オディエ・シンガポールのシニアマクロストラテジスト、ホミン・リー氏

  • 週明けの市場では、より不安定な政権での財政政策に対する懸念を反映し、日本国債のボラティリティーが高まる見通し
  • 最新の政治情勢を織り込む形で金融政策への高市氏の影響力に対する市場の見方が再調整される中、円は小幅に反発する可能性がある

東海東京証券の佐野一彦チーフ債券ストラテジスト

  • 高市氏が首相に就任する場合も、野党が結集して玉木雄一郎国民民主党代表が首相になる場合も、財政拡張の可能性がこれまで以上に高まり、金利は上昇する
    • 高市氏が首相になる場合、公明党を欠いてさらなる少数与党になるため、これまで以上に野党の財政拡張の要求を受け入れざるを得ない
  • 衆院解散に踏み切る可能性もあり、その場合は大型の財政拡張が打ち出されるとみる

三菱UFJアセットマネジメントの小口正之エグゼクティブ・ファンドマネジャーは

  • 自公連立解消で高市氏の首相就任の可能性が低下した
  • 政局は混沌(こんとん)としてきたが、日本銀行の利上げに否定的だった高市氏の首相就任の可能性が低下し、日銀の自由度は高まる
    • 日銀の利上げが進みやすくなり、新発10年債利回りは年内に1.85%まで上昇する
    • 足元のインフレを考えれば、日銀は早期の利上げをせざるを得ないだろう

プリンシパル・アセット・マネジメントのアジア債券部門責任者、阮豪忠氏

  • 多少の驚きはあるが、初期反応はコントロール可能は範囲で、これまでの「高市効果」からの調整局面と言える
  • 野党単独での政権樹立も困難なため、基本シナリオでは依然として高市氏が首相に就任する見込みだ

--取材協力:アリス・フレンチ、日高正裕、我妻綾、ジョン・チェン.

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