(ブルームバーグ):イスラエルとイスラム主義組織ハマスが停戦に合意した。これは、戦争終結を目指す20項目の計画の第一段階となる。だが、トランプ米大統領が言うように、これで中東に「永続的な平和」が訪れる入り口にいるのかといえば、まったくそうではない。パレスチナ自治区ガザがアラブ主導の国際部隊の下で再建され、ハマスとイスラエル国防軍が夜の闇に消える。そんな展開は、夢物語にすぎない。
もちろん、停戦だけでは、そこまで野心的な目標を達成できるものではない。今回の合意は、すでにあまりにも長く続いた戦争を止めるという重要な意義を持っている。
生存が確認されているイスラエル人の人質20人は、生き地獄から解放される。遺体で帰還する人もいるが、家族には区切りとなる。「正当な防衛」の範囲をとうに逸脱したパレスチナ民間人の殺害も、ようやく止まる。十分な食料と医療支援が流入し始めるだろう。こうした苦しみのどれ一つとして、正当化も容認もされるものはなかった。
停戦合意の進展は、トランプ氏の言葉を借りれば「とてつもなく大きい」成果だ。同氏がこの成果を自分の手柄と主張する資格はあるだろう。しかし、これを「平和」と呼ぶのは時期尚早で、ましてやトランプ氏が述べたような「前例のない」ものでもない。イスラエルとハマスは過去に2度、「停戦と人質交換」の合意に達したが、いずれも長期的な解決にはつながらず崩壊している。
それでも、トランプ氏が強い圧力をかけなければ、イスラエルのネタニヤフ首相がこの計画のいかなる段階にも同意することはなかっただろう。この計画は本質的に、ガザ占領と事実上の民族浄化を容認してきた米政権の従来の姿勢を覆すものだからだ。ネタニヤフ氏がカタールへの空爆を謝罪しなければ、カタールやトルコもハマスに同様の説得を行い、合意成立を支援しなかっただろう。
これからの道のりは険しい。発表文にハマスの武装解除や、イスラエル国防軍(IDF)の完全撤収に関する記述がなかったことは、不安を拭えない。ハマスも、イスラエルの拡張を信奉する過激派が多数を占めるネタニヤフ内閣も、この戦争を終わらせたいとは考えておらず、やむを得ず停戦に追い込まれたに過ぎない。
慎重ながらも楽観視する理由はある。真の平和の実現にはまだ時間を要し、ネタニヤフ氏が人質全員の解放後に戦闘再開を試みる誘惑に駆られる可能性はあるが、その代償はあまりに大きい。これからも混乱や暴力は残るだろうが、それでも、数万人の民間人が犠牲になった大規模な流血よりは、はるかにましだ。
持続可能性
今回の停戦は、過去の一時的な休戦とは異なり、より持続する可能性があると考えられる。
トランプ氏の第1期政権での「アブラハム合意」により、イランという共通の脅威に対抗するためにイスラエルとアラブ諸国の連携を図った当時と比べ、現在の湾岸諸国の見方は大きく変化している。今や彼らは、地域の不安定化を招く最大の要因をイスラエルと見なし、ネタニヤフ政権への支持は、米国への信頼を損なうものとなった。イスラエルのカタール空爆は、その転換点だった。
もう一つの理由は、ハマスとネタニヤフ政権の双方が、すでに国民からの信頼を失っているという事実だ。イスラエルの長期政権を率いてきたネタニヤフ氏は、2023年10月7日にハマスがイスラエル国内で虐殺を行った際の政治的・情報的失策に関する調査を拒み続けている。戦闘が終わればこの態度を維持するのは難しくなるだろう。ハマスも、パレスチナの人々への壊滅的な報復を招く事態になった理由を、いまだ説明していない。
つまり、両者とも真の平和を望む政治的動機を欠いてはいるものの、停戦が十分長く続けば、彼らの影響力を弱め、これ以上の破壊を防げる可能性がある。
実際、銃撃のない日々が続けば続くほど、戦闘の再開は難しくなるだろう。とりわけ、米国やアラブ諸国、その他の国際勢力がこの停戦を有効に活用するなら、その効果は大きい。国際支援団体、ジャーナリスト、その他の独立した関係者がガザに多く入るほど、停戦を破る政治的代償は高まる。過去24カ月に起きた出来事の実態が明らかになれば、双方の指導者にとって極めて不都合になるだろう。
イスラエルとパレスチナの共存への道のりは、平和への道よりもはるかに長く険しい。それでも、停戦は命を救い、時間をかけて両陣営の過激な要素を弱める可能性がある。それだけでも、十分に喜ぶべき成果だ。
(マーク・チャンピオン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Gaza Ceasefire Is a Breakthrough, If Not a Peace: Marc Champion(抜粋)
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