フランスのマクロン大統領が2027年までの任期を全うする上で、ルコルニュ首相は「最後の切り札」になるはずの人物だったが、戦略失敗の象徴で終わってしまった。辞表を提出したルコルニュ氏に対し、マクロン氏は8日夜まで各政党と交渉し、政治危機の深刻化を防ぐ最後の努力を行うよう要請した。この期間に何が起ころうが、議会選挙の前倒しが政治危機を脱する唯一の選択肢であるように見える。そしてこの危機は、欧州全体に波及しかねない状況にある。

ルコルニュ氏が首相に指名された時点で、政府の基盤はあまりにもぜい弱だった。ルコルニュ氏は過去2年間で5人目の首相となり、議会に過半数を持たず、予算案もこれからだ。

ルコルニュ氏が賭けたのは、高所得者への増税や憲法上の特別権限の活用抑制を約束するなどの新たな譲歩を行い、左派を味方に付けることだった。この憲法上の特別権限は、マクロン氏が2023年に定年を引き上げた際に行使したため、いまだ禍根(かこん)を残しており、高所得者への増税は国内総生産(GDP)比6%に上る財政赤字の抑制に向け、幅広い支持が得られる手段と見なされている。

だが、この戦略は甘過ぎだったことがすぐに明白になった。2027年の大統領選勝利を目指す野党勢力が政治の主導権をますます握りつつある中で、週末に閣僚名簿を発表した瞬間に、ルコルニュ内閣の命運は尽きた。

レスキュール元産業担当相やルメール元経済・財務相らマクロン氏側近を重要閣僚に起用したのは、昨年の議会解散に並ぶ重大な判断ミスで、各勢力から反発が巻き起こり、ルコルニュ氏が本来よりどころとする中道右派も離反の構えを見せた。こうなってしまっては強行する道はない。辞任が賢明だった。

マクロン氏は公式にはまだ国家元首で、辞任の可能性も低いようだが、耳を傾ける者が誰かいるだろうか。かつてないほど不人気な大統領がまた別の首相を見つけてくるとしても、挑発にしかならない。

最もあり得る結末は、2年連続の議会解散・総選挙だが、社会の分断が深刻なフランスにもたらす不確実性は計り知れない。若いホワイトカラー層は、もはや中道政党に共感を抱いていない。マリーヌ・ルペン氏の極右・国民連合(RN)が昨年を超える票を獲得するリスクは明らかにあり、極右よりも極左の伸長を阻止すべきだと考えている有権者の方が多い。現時点で大統領選挙が行われれば、RNでルペン氏に次ぐナンバー2の地位にあるバルデラ党首が、第1回目の投票で得票率約30%で首位に立つ見通しだ。RNは議会の単独過半数には届かないかもしれないが、対抗できる勢力を見つけるのは難しい。

任期を2027年に終えるマクロン氏は「レームダック(死に体)」だが、もはやなすすべのない様相を強めている。企業の喝采(かっさい)を浴びた優遇税制や労働政策など、改革の中核的な部分は失敗に終わり、明確な後継者の台頭もなかった。極右の勢力拡大を抑える特効薬は、誰も見いだせていないようだ。

膨大な経済的・地政学的困難に直面する欧州にとって、内向きのフランスは悲惨な結末をもたらすだろう。このコラムでは最近、現在の危機はマクロン時代の終わりを告げていると主張した。今やそれを、誰もが感じ取っているだろう。

(リオネル・ローラン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、以前はロイター通信やフォーブス誌で働いていました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Lame-Duck Macron Is Now a French Sitting Duck: Lionel Laurent(抜粋)

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