(ブルームバーグ):米小売り最大手ウォルマートは、競合他社が労働力不足に不安を抱くなか、これまで敬遠されがちだった長距離輸送の仕事を見直し、過去3年間でトラック運転手の人員を33%増やした。目立つのは女性の存在感だ。
自らを「テルマ&ルイーズ」と呼ぶレスリー・スコット氏(58)とミシェル・サリキー氏(69)も同社の女性ドライバーだ。2人の年収は約13万5000ドル(約2100万円)で、一般的なトラック運転手の約2倍に相当する。車両にはWi-Fiも備わり、危険なルートでは運転手を2人1組で配置するなど、安全性に配慮した運行体制が整っている。
こうした取り組みにより、男性が圧倒的多数を占める職種で、同社は他には例を見ないほど多くの女性を惹きつけることに成功している。データ分析会社レベリオ・ラボの推計では、ウォルマートのトラック運転手の18%を女性が占める。これは競合他社の女性比率のほぼ2倍にあたる。
米国のトラック輸送は、人口動態上の深刻な問題に直面している。ベテラン運転手が引退する一方で、業界はその代わりとなる若年層の確保に苦戦している。長時間で孤独な勤務、危険な労働環境、低賃金といった条件は多くの人に敬遠され、介護など家庭の責任を抱える人にとっては特に続けにくい。さらに最近では、運転手に求める英語能力の要件をトランプ政権が強化するなか、採用活動はいっそう難しくなっている。
ウォルマートのような企業にとって、ドライバーの確保は物流を維持する生命線だ。とりわけアマゾン・ドット・コムなどと配送の迅速性で競うなかでは、その重要性は一段と増している。
S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスの輸送コンサルティング部門ディレクター、ポール・ビンガム氏は「トラック業界にはより多くの運転手が必要であり、従来とは異なる層から人材を引きつける必要がある」と語った。
人手不足の深刻化を10年前から見越していたウォルマートは、ドライバーの採用と定着に向けた取り組みを強化し、初年度年収を引き上げるなどの施策を進めてきた。また、12週間の研修プログラムを設け、店舗や倉庫で働く従業員がトラック運転手に転じられるようにした。これまでに約1000人が同プログラムを修了したという。
しかし、乗り越えるべき課題はなお多い。アラスカなどのルートでは、霧や雪、氷点下の気温、野生動物との遭遇など、過酷な条件での運転を強いられることも少なくない。アラスカの冬は約7カ月続き、気温は摂氏マイナス40度まで下がることもある。スコット氏とサリキー氏は、厳冬期に食べ物を探すクマに遭遇したこともあるという。
トラック運転手は、交通量の少ない道路を1人で走ることが多く、強盗の標的にもなりやすい。路肩で眠り、鉄砲水や竜巻、視界を奪う吹雪など、あらゆる天候の脅威にさらされる場面もある。スコット氏とサリキー氏は、路肩で孤立した運転手を救助した経験もある。
また、女性ドライバーにとってはハラスメントのリスクも常につきまとう。ウォルマートはアラスカ路線では、安全確保のためドライバーを2人1組にする体制をとっている。
孤独を引き受ける覚悟
ウォルマートはトラックそのものへの投資も大きく拡大している。
スコット氏とサリキー氏のトラックは、アラスカ特有の地形に対応できるよう設計されており、燃料タンクは大型化され、ヘッドライトもより明るくなっている。
遠隔地でもインターネット接続を確保するため、トラックには衛星通信サービス「スターリンク」の端末が搭載されている。
運転席後方の居住スペースには電子レンジ、冷蔵庫、ベッドがある。ただ、トイレは備わっていない。道路沿いに利用できる施設が少ないこともあり、ドライバーたちは水分摂取を控え、コーヒーや炭酸飲料も避けるという。
しかし、運転手たちが口をそろえて挙げる最もつらい点は、家を離れて過ごす時間が長いことだ。数日間にわたる移動が続くため、人間関係を築くのが難しいという。
こうした背景もあり、第2のキャリアとしてトラック運転手に進むのは、子育てを終えた層の方が向いているかもしれない。スコット氏とサリキー氏も、子育てと別の職を経験した後、この道に踏み出した。
スコット氏は「多くの人が気づいていない価値がこの仕事にはある」と話す。孤独を引き受ける覚悟が求められる一方で、道の上で生きることそのものに魅力を感じているという。
原題:Walmart’s $115,000 Pay and Better Rigs Draw Women to Trucking(抜粋)
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