頑張れ、と言えない

爆撃で両脚を骨折した患者と中池さん(提供:国境なき医師団)

全く笑わない女の子が印象に残っているという。火傷が酷くて何度も皮膚移植を繰り返し、もはや皮膚を取ってくる場所がないくらいだった。負傷による心理的ダメージに加えて「繰り返される手術とか医療行為にも恐怖感と不信感があったのでは」と中池さんは感じている。

イスラエルは常に「我々は民間人被害を最小限にするよう努力している」「しかしハマスが民間人に紛れているのだ」と主張する。カッツ国防相は今月、ガザ市への攻勢を強める中で市民に退去を迫り「留まる者はテロリストだ」とSNSに投稿した。

これについてどう思うか問うと、中池さんは「こんなにたくさんの人を巻き添えにしてはダメです」「自分たちが元々いた地域にいる人たちを勝手に”テロリスト”って呼ぶのはおかしいと思います」と、短く、鋭く答えた。

子どもの心のケアをする現地スタッフ(提供:国境なき医師団)

ガザで活動する国境なき医師団のスタッフはおよそ1100人。そのうち松田さんや中池さんのような国際スタッフは40人で、あとは現地のパレスチナ人が担っている(8月20日時点)。

現地スタッフの中にも、家を失い、あるいは追われ、家族を失い、疲弊している人たちが多かった。「何度も何度も移動させられ、もう疲れた。大きな爆弾が落ちて、一瞬で死んだ方が楽になるんじゃないか」とこぼすスタッフに、中池さんは返す言葉が見つからなかった。

日本に帰ってきた今も現地スタッフとはメッセージのやりとりが続いている。答えが返ってくるかどうかを心配しながら「元気?」と聞く。返信が来ると安心するが、その内容を見て、どう返せばいいかわからないことも多いという。

「もう、生きているだけで頑張っているので、それ以上に頑張れ、とは言えないです。生きててほしい、という言葉も言えないです。多分彼らにとっては生き地獄みたいな感じで生きている状況だと思うので…」

国境なき医師団は会見の最後に「医師にジェノサイドは止められない」という言葉を掲げた。「できることは全部している。でも人道援助で紛争は止まらない」。

これを書いている時点で、ハマスとイスラエルの交渉の行方は見通せない。仮に第一段階で合意できたとしても、その後はさらに視界が悪い。ただ現状を変えることができるのは政治でしかない。

中池さんは、自分だけ安全な場所に戻ってきたことに罪悪感も感じる。一方で、外国人が支援に入ることの重要性もある、と信じる。

「ガザの人に、世界から見捨てられてない、という希望を、少しでも、一つでも、与えられるのではないかと思います」