(ブルームバーグ):米経済がほぼ2年ぶりの高い伸びを示したとの統計が最近発表されると、ホワイトハウスは「トランプ経済の爆発的成長だ」と称賛し、「いわゆる専門家たち」の予測が誤っていたとする声明を発表した。
4-6月(第2四半期)の実質国内総生産(GDP)確報値は3.8%増となり、ホワイトハウスはこれを新たな経済再生の始まりに過ぎないと位置付けた。
しかし、この強気の論調は、GDP発表の数時間前に発表された別のメッセージと好対照をなしていた。最近任命されたマイラン連邦準備制度理事会(FRB)理事はテレビインタビューで、脆弱(ぜいじゃく)な経済への緩衝材として迅速かつ大幅な利下げを求めた。
同氏はブルームバーグテレビジョンで「大惨事の発生を待つより、先手を打って利下げするべきだ」と述べた。

今回のように対照的なメッセージが発せられるのは、トランプ政権下で繰り返されてきた混乱した経済メッセージの最新例に過ぎない。政権は経済が好調と主張する一方で、インフレ率が依然としてFRBの目標である2%を上回る中でも、利下げ圧力を強めている。
ウルフ・リサーチの米国政策・政治の責任者、トビン・マーカス氏は「経済は絶好調だとしながら、同時に複数回の利下げが必要だと訴えるトランプ大統領のメッセージには根本的な矛盾がある」と指摘する。
トランプ氏が経済に対して同じような見解の当局者を通じてFRBの政策運営に自らの見解を反映させようとする中、この矛盾をどこまで押し通すかは、今後の利下げの深さやペース、タイミングを左右する重要な要因となる可能性がある。
トランプ氏は9月にスティーブン・マイラン氏をFRB理事に指名したほか、来年パウエル議長の任期が終了するのを見据え、次期議長候補の検討も進めている。クックFRB理事の解任にも動いている。
連邦最高裁判所は1日、クック理事の職務継続を暫定的に認めたうえで、来年1月に口頭弁論を開くと発表した。最終的にトランプ氏が勝訴すれば、新たな理事を自由に任命できる見通しとなる。
板挟み
板挟みとなっているのがパウエルFRB議長だ。労働市場の減速が鮮明になる中で、「リスクの全くない道は存在しない」と警告する一方、インフレが高止まりする見通しも示している。
連邦公開市場委員会(FOMC)は9月17日の会合で、今年5回連続で金利を据え置いた後に、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを0.25ポイント引き下げ、年率4-4.25%とすることを決定した。併せて発表された政策金利見通し(中央値)では、年内にさらに0.25ポイントずつ2回の追加利下げが見込まれている。
これに対し、マイラン理事は0.5ポイントの利下げを主張し、反対票を投じた。9月22日の講演では、中立金利はこれまで過大評価されていた可能性が高く、最近では関税や移民規制、税制によってさらに低下していると主張。そのため、経済への悪影響を回避するには、金利はもっと低くあるべきだと述べた。
野村の先進国担当チーフエコノミスト、デービッド・セイフ氏は「政権やマイラン氏が求めている利下げは、弱い経済指標に反応したものではなく、むしろトランプ政権の政策によって今年に入り中立金利が低下していることを踏まえ、金融引き締め度合いを適正化するためだとの論理に基づいている」と指摘した。
もっとも、米経済の先行きについては見解が分かれており、統一的な見通しはない。
パウエル議長は労働市場について「奇妙だ」と表現し、「リスク管理の利下げ」と説明している。次期FRB議長候補の1人と目されるブラックロックのリック・リーダー氏は9月5日のブルームバーグテレビジョンで、雇用市場は弱含んでいるが、経済は「実際には好調だ」と述べている。
弱さを覆い隠す
株式相場が好調で、人工知能(AI)やデータセンター建設といった一部分野は堅調さを示しているが、こうした動きが広範な経済の弱さを覆い隠している可能性がある。小売り消費が堅調なのは、主に高所得層がけん引しているためだ。
ペンシルベニア州メカニクスバーグで住宅改装業「ウエスト・ショア・ホーム」を営むB・J・ワーゼン氏は、この二極化が現実のものとなっていると指摘。窓やドア、新しいバスルームの需要は依然として堅調だが、それは全ての顧客層からではないという。
「高所得者層は依然として支出を続け、リフォームも積極的に行っている。一方、中・低所得層は、そうした計画を先延ばしにしているのではないか」と、ワーゼン氏は語った。
その一方で、ここ数年は人手不足に悩まされていたが、最近では求人もスムーズにいくようになってきたとし、「2022年や23年に比べ、労働市場の状況は格段に扱いやすくなった」と述べた。
今後数カ月の動向がこの政策論争の行方を左右する可能性がある。すなわち、過熱気味の経済を抑えるために高金利を維持すべきだとする立場と、景気の下支えには大幅な金融緩和が必要だとする見方のいずれが正しいのかが問われる。
ユリゾンSLJキャピタルのスティーブン・ジェン最高経営責任者(CEO)は「これこそが、ハト派とタカ派の根本的な対立だ」と語った。
原題:Stall Speed or Boom? Trump Wants Rate Cuts Even as Economy Grows(抜粋)
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