(ブルームバーグ):経営破綻した米サブプライム(信用力の低い個人向け)自動車ローン会社トライカラー・ホールディングスの創業者ダニエル・チュー被告は、不正を最終的に露呈させた部下の重大なミスについて、「今まで聞いたこともない愚かな話」と切り捨てた。8月の通話がひそかに録音されていた。
チュー被告(62)のほか、最高執行責任者(COO)を務めていたデービッド・グッドゲーム被告(49)、財務担当幹部だったアメリン・サイボルト被告(31)らは、会社運営で組織的不正を行ったとして、詐欺罪などで起訴された。同社は不正疑惑の渦中で、9月に連邦破産法に基づく清算手続きを申請した。
マンハッタンのニューヨーク州南部地区連邦地検は、トライカラーの幹部らがチュー氏の指示を受け、自動車ローン債権を担保として二重に差し入れたり、ローンの属性を操作したりするなど、さまざまなスキームで貸し手の金融機関を繰り返し欺いたと主張した。検察によると、不正の規模は10億ドル(現在の為替レートで約1578億円)を上回るという。
同地検の17日の発表によれば、チュー被告の側近の1人、サイボルト被告は、トライカラーが貸し手に定期的に送付していた表計算ソフト「エクセル」のデータを操作し、支払いが延滞している自動車ローン数千件を正常に見せかける役割を担った。ところが、別の欄に記載するローン残高の数字は減らしておらず、明らかな不一致が露呈した。
「残高が減るはずだと考えずにどうしてこんなことができたのか」とチュー被告は電話で嘆いたという。
数字の食い違いに気付き、最初に異変を訴えたのは、規制監督当局でも監査担当者でもなく、トライカラーに資金を提供していた米投資運用会社ウォーターフォール・アセット・マネジメントの若手アナリストだった。ブルームバーグが先に伝えた。これが数週間後の清算手続き申請に至る破局の引き金となる。
サイボルト被告の説明は、収拾のつかない混乱状況を浮き彫りにする。起訴状によると、トライカラーでは長期にわたり、貸倒債権扱いの約8000件のローンが複数の与信の担保となっていた。(正常な元利払いを反映させる形で)残高を一度に減らせば、既に深刻な経営難に陥っていた同社に数百万ドルの支払い義務が生じるため、減額できなかったと同被告は主張した。
検察によれば、2025年9月までに約22億ドル相当の資産が与信の担保に設定されていたが、内部の記録が示す実際の担保は約14億ドル相当に過ぎなかった。
18年ごろ始まったとされる不正がこれほど長く続き、主要金融機関の一部も欺いたことで、トライカラーの破綻はウォール街で話題になる教訓の一つとなった。
キュラセット・キャピタル・マネジメントのポートフォリオマネジャー、アヴィナンド・ジュタギル氏「今回の疑惑が何年も続き、愚かなミスで明るみに出たことに驚かされる。人々は気付いていないかもしれないが、数百億ドル相当の債券が、ごく単純な昔ながらのエクセルファイルに依存することがあり得るからだ」と指摘した。
貸し手がデータの異変を訴え始めた瞬間から、トライカラーの経営幹部の間で、何とか事態を乗り切ろうという緊迫した電話のやりとりが続いた。1人、場合によって複数の参加者がひそかに通話を録音しており、問題の大きさが明らかになる過程で、パニック、責任の押し付け合い、必死の打開策が交錯する様子が記録された。
チュー被告は8月後半までの段階で、与信枠から既に手を引いたJPモルガン・チェースと決着を図る方法をグッドゲーム被告、ジェローム・コラー被告らと練っていた。
チュー被告は、トライカラーの破綻をエネルギー大手エンロンの不正会計事件になぞらえ、警告サインを無視した銀行への脅しを交渉手段に用いる案も電話で話し合った。「エンロンという言葉、響きがいいだろう。貸し手の血圧が上がる」と言及したという。
チュー被告にテキストメッセージで連絡を取ったが、コメントしなかった。詐欺で有罪を認めたサイボルト被告の代理人の弁護士、ウォーターフォールとJPモルガン・チェース、バークレイズ、フィフス・サード・バンコープを含むトライカラーの債権者もコメントを避けた。
原題:Tricolor’s Excel Guy Failed to Fix Numbers in Alleged Fraud (1)、Tricolor Founder Chu Charged With Alleged Fraud, DOJ Says (3)(抜粋)
(チュー被告らの電話のやりとりに関する情報を追加して更新します)
--取材協力:Chris Dolmetsch.
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