中国の人工知能(AI)半導体メーカーが相次ぎ新規株式公開(IPO)に踏み切ろうとしている。テクノロジーの自立という国家目標を達成し、AI分野でのグローバル競争を勝ち抜くため、資金調達を急いでいる。

上場ラッシュの背景には、上海で2件の大型上場が成功し、米エヌビディアに対抗し得るとアナリストらが予想する将来のナショナルチャンピオン候補への旺盛な需要が示されたことがある。すでに国内の業界リーダーとなっている企業もあるが、多くの海外投資家にはあまり知られておらず、香港でのIPOを目指すのであれば信頼感も問われる。

AI半導体メーカーの摩爾線程智能科技(ムーア・スレッズ・テクノロジー)は今月、上場初日に425%高で取引を終了。同業の沐曦集成電路(メタX)も初日の取引を693%高で終えた。

バークレイズのアジア太平洋現物株エグゼキューション責任者、マット・トムズ氏は「中国は半導体を巡る競争で相当な追い上げを見せている。2026年か27年に、低コストで競争力のあるチップを中国が生産する『DeepSeek(ディープシーク)・モーメント』が訪れても不思議ではない」と指摘。「もしそうなれば、エヌビディアとそのサプライチェーンに劇的な変化をもたらすことになるだろう」と話す。

トムズ氏は低コストながら世界最高水準のチャットボットに匹敵する性能を持つモデルを今年初めに公開し、AI業界を揺るがした中国の新興企業、ディープシークに言及。米下院の委員会に所属する共和党議員らは国防総省に対し、ディープシークなど企業群を中国の軍関連企業リストに含めるよう求めている。

 

株式上場を目指している中国のAI半導体企業は次の通り。

上海壁仞科技(ビレン・テクノロジー)

2019年に設立された上海壁仞科技は、画像処理半導体(GPU)やクラウドコンピューティングなどの分野に注力し、エヌビディアへの最も有望な対抗馬の一つと考えられている。今月には中国証券当局から最大3億7250万株に上る新株発行承認を受け、香港取引所に上場書類を提出した。約6億ドル(約940億円)規模のIPOを視野に、月内にも投資家の需要調査を始める予定だ。

壁仞科技は23年、特別な許可がなければ米技術の販売が禁じられる「エンティティーリスト」入りした。

崑崙芯(クンルンシン)

インターネット大手、百度(バイドゥ)のAI半導体部門である昆侖芯も、香港上場を検討している。

データセンターのサーバーを動かす半導体の製造を手がける同社の評価額は、少なくとも30億ドルに上る。昆侖芯はオンライン事業運営のために膨大な計算能力を必要とするバイドゥの需要を満たすために設立された側面がある。

 

上海天数智芯半導体

2015年に設立された上海天数智芯半導体もエヌビディアの潜在的な競争相手で、香港上場に向けて書類を提出済み。ブルームバーグ・ニュースは今年8月、天数智芯が3億-4億ドル規模のIPOを検討していると報じた。

上海燧原科技(エンフレーム・テクノロジー)

中国本土でのIPOを目指す上海燧原科技は、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)出身者によって2018年に設立された。テンセント・ホールディングス(騰訊)や中国の国家半導体ファンドなどが出資している。

ブルームバーグ・ニュースは昨年、赤字でも高成長のスタートアップが上場できる上海証券取引所の「科創板」で、燧原科技がIPOを通じ最大20億元(約450億円)の調達を目指していると報じた。

兆易創新科技(ギガデバイス) 

兆易創新科技は、家電や産業・自動車用途で広く使用されるメモリーチップやマイクロコントローラーを得意とする。 すでに上海に上場している同社は、来年1月にも香港でセカンダリー上場を果たし、最大10億ドルの調達を探っている。

瀾起科技(モンタージュ・テクノロジー)

瀾起科技はデータセンターサーバー向けを中心にメモリーインターフェースチップに注力。兆易創新と同様、上海に上場している同社も、早ければ来月にも香港でのセカンダリー上場で最大10億ドルの調達を目指している。

瀾起科技の本土上場株の予想株価収益率(PER)は約44倍と、科創板の51倍や、中芯国際集成電路製造(SMIC)の126倍を下回っている。

長鑫存儲技術(CXMT)

長鑫存儲技術は中国を代表するメモリーチップメーカーだ。最近では、スマートフォンなどモバイル機器向け先端チップの量産を始めたと発表し、サムスン電子など外国勢が有利な分野で競争する中国初の企業となった。同社の価値を最大3000億元と評価し得る本土IPOを検討している。

長江存儲科技(YMTC)

長江存儲科技も400億ドルを超える評価額で、中国本土でのIPOを検討。2016年に設立された同社は3D NANDフラッシュメモリーの設計・製造に注力し、高度なメモリーソリューションを提供している。

原題:Chinese Chipmakers Race to IPO After Back-to-Back Listings Surge(抜粋)

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