インドネシアのプルバヤ財務相はかつて中央銀行の総裁を目指していたが、今は中銀に指示を与えたいと考えている。

事情に詳しい複数の関係者によれば、同氏は長年にわたり友人や同僚に中銀は独立性を持つべきではないと語ってきたという。プラボウォ大統領も同じ考えだとされている。

国際社会で信頼の厚かったムルヤニ財務相を大統領が解任したことを受け、プルバヤ氏は9月に就任したばかりだ。

プルバヤ財務相

インドネシア銀行(中銀)に対する圧力は高まっている。同中銀は先月、新型コロナウイルス流行の危機時に導入したスキーム「バーデンシェアリング(債務負担分担)」を復活させた。これは従来、危機的状況に限って用いるとしていたものだ。

また、政治家が中銀幹部を解任しやすくなる法改正の動きや、中銀の政策目標を改める議論も進んでいる。

ブルームバーグが集計したデータによれば、グローバル投資家は2000億ドル(約29兆5000億円)を超えるインドネシア資産を保有している。

 

国債投資家はすでに財政赤字拡大に警戒を強めており、中銀を巡るこうした動きは財政支援やインフレ抑制における中銀の役割に疑問を投げかける。

インドネシア・ルピアは1990年代後半のアジア通貨危機時に近い安値水準で推移し、市場の不安を映し出している。

シンクタンク、インドネシア政策研究センターの上級研究員で元中銀エコノミストのハリー・バスコロ氏は「インドネシアの新しい枠組みは協調というよりも、独立性を従順に変えるもののようだ」と述べた。

中銀の独立性の低下懸念や財政拡張への警戒感から、インドネシア国債市場ではここ3年余りで最大規模の資金流出が起きている。

プルバヤ氏はブルームバーグTechnozとのインタビューで、中銀や財政赤字に対する懸念を否定した。インドネシア中銀は法に従って職務を遂行しており、バーデンシェアリングの枠組みはプラボウォ政権の重点政策を支援する一時的措置にとどまると強調した。

 

景気をより効率的な支出で押し上げられると示せるまで、財政規律を緩めることはないとも述べた。ただし、債務や赤字に関する制約は恣意(しい)的であり、他国はこれを逸脱しているとも指摘した。

財務省は取材に対しコメントを控え、インドネシア中銀も回答しなかった。

国債売り

世界の市場では長年、金利政策は経済データに基づき政治から独立して決定されるのが原則だった。この仕組みは投資家にとって判断を容易にする基盤となってきた。しかし今、その土台が揺らいでいる。

米国ではトランプ大統領が米連邦準備制度理事会(FRB)に利下げを迫り、理事を退任させようと試みるなど、従来からの仕組みを覆す圧力を高めている。

こうした動きは各国に広がり、金融政策が財政支出や政府債務の負担に従属する「財政優位(fiscal dominance)」への懸念を強めている。

プリンシパル・アセット・マネジメントのアジア債券部門責任者、阮豪忠氏は「この20年間われわれは中銀の動きを注視してきたが、状況は完全に逆転した。市場の主要テーマは今、財政優位だ」と述べた。

トランプ大統領とパウエルFRB議長

各国政府が歳出を拡大し借り入れを増やす中で、投資家は米国や欧州、日本の長期国債を売っている。さらに中銀が債務負担軽減のために利下げを迫られるなら、通貨安とインフレ再燃への懸念が高まる。

インドネシアの国債相場は一連の利下げを受けて上昇し、ブルームバーグの現地通貨建て債指数は年初来で9%以上のリターンを示している。それにもかかわらず、最近は資金流出が続いている。

ルピアは9月に対ドルで約1%下落し、アジア通貨としては今年下げが際立っている。今も4月に記録した過去最安値に近づいている。当時はトランプ氏が発表した関税措置が世界市場を揺るがしていた。

外国人投資家はインドネシア株式市場の約40%、国債の14%を保有していると、政府統計およびブルームバーグの集計データが示している。

一方、インドネシア株の指標ジャカルタ総合指数は9月に約3%上昇し、過去最高水準近くで推移。海外投資家の売りを国内勢の買いが補う形となっている。

原題:Trump-Like Threat on Independent Central Bank Seen in Indonesia(抜粋)

--取材協力:Matthew Burgess、Rthvika Suvarna、Prima Wirayani、Harry Suhartono、Abhishek Vishnoi、Grace Sihombing.

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