(ブルームバーグ):日本銀行の植田和男総裁は3日、金融政策について、物価目標の実現確度や上下リスクを点検して「予断を持たずに適切に政策を判断していく」との考えを示した。追加利上げの時期を示唆するような発言はなかった。
植田総裁は大阪経済4団体共催の懇談会で講演で、「経済・物価の中心的な見通しが実現する確度や、上振れ・下振れ双方向のリスクを丹念に点検する」とした。現在の実質金利は極めて低い水準にあるとし、「経済・物価の中心的見通しが実現していけば政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整する」と述べた。

経済・物価の改善度合いについては、「世界経済の動向、関税政策が日本企業の収益や賃金・価格設定行動に与える影響、食料品価格を含めた物価動向などを点検していくことになる」と説明。点検ポイントの第一に米国経済の動向を挙げた。
日銀は前回9月の金融政策決定会合で、政策金利を0.5%程度に据え置く一方、上場投資信託(ETF)の売却を決めた。2人の審議委員が利上げを主張して政策維持に反対。29日には利上げに慎重とみられていた野口旭委員が前向きな発言をするなど利上げ議論に広がりがみられる。次回会合を控え、植田総裁が先行きの政策運営について、どのような見解を示すか注目が集まっていた。
為替市場では、植田総裁が利上げに積極的ではないとの見方から円売りが優勢となり、対ドルで147円台後半に下落した。円安を受けて株式は買われ、日経平均株価の上げ幅は800円を超えた。
あおぞら銀行の諸我晃チーフマーケットストラテジストは、総裁発言が円売りにつながっているとの認識を示した。全般的にはスタンスは変わっておらず、自民党総裁選を控え、10月日銀会合まで時間がある中で、想定通りバランスを取った発言内容との見方を示した。
日銀は29、30日に決定会合を開催する。オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)市場では、次回会合で利上げが実施される確率は5割強、年内では7割強となっている。
業況感は良好な水準
日銀が1日発表した9月の企業短期経済観測調査(短観)は、大企業製造業の景況感が2四半期連続で改善した。米関税政策の日米合意を受けた不透明感の後退などが背景にある。
植田総裁は、企業の業況感は「日米関税交渉の合意により、先行きの不透明感が後退したとの見方から、製造業の一部で改善し、全体としても良好な水準となっている」と指摘。企業収益は米関税の影響などが製造業で見られるものの、「全体としては既往ピーク並みの高水準が維持されている」との認識を示した。
これまでに蓄積された高水準の企業収益が「ある程度バッファー」になり、「賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズムは、基本的に今後も維持される」とも語った。
米関税措置を巡っては、日本からの輸入品に一律15%を課すことで合意したが、植田総裁は、「15%というこれまでにない高い関税」は、日本経済の下押し要因として作用すると指摘。その上で、「まずは緩和的な金融環境を維持し、経済活動をしっかりと支えていくことが大切だ」と述べた。
総裁は9月の会見で、米関税政策の影響について「今後のデータやヒアリング情報を確認していきたい」としていた。
食料インフレに注意
午後の会見で植田総裁は、短観について、「われわれの見通しが実現する確度は高まっているということだと思う」と評価した。もっとも、米関税政策の影響が「顕在化していない部分が非常に多い」ほか、米政府機関の一部閉鎖の影響など、さまざまな方向から情報収集した上で政策判断につなげる考えを示した。
米国経済については、「データを見る限り、労働市場以外は割と堅調に推移している」と指摘。上振れて着地するリスクも「ゼロではない」とし、さまざま観点から点検していきたいと語った。
8月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は前年同月比2.7%上昇。政府の物価高支援策に伴いエネルギー価格が下落した影響で前月から伸びが縮小したものの、日銀の2%目標を41カ月連続で上回っている。
物価高への政策対応が遅れる「ビハインド・ザ・カーブ」に陥るリスクに関する質問に対しては、その可能性は現時点で「高くはない」と語った。ただ、「食料品価格のディスインフレのペースが遅く、基調または中長期のインフレ期待を押し上げるようことになると注意が必要だとの認識を示した。
講演・会見での他の発言
- 賃金上昇伴う緩やかな物価上昇を目指し、政策運営している
- 先行き不確実性高く、予断持たずデータなどを確認
- 食品価格上昇の長期化、消費下押し・物価押し下げにも注意
- 膨らんだバランスシートを適切な規模に戻すことが日銀の大きな課題
- このプロセスは今後かなりの期間にわたって続くことが予想される
- 米経済データ公表が遅れてしまうことは深刻ー米政府閉鎖
- 任期後半の課題、2%物価目標の達成に近づけたい
(植田総裁の午後の会見での発言を追加して更新しました)
--取材協力:梅川崇、氏兼敬子、日高正裕、山中英典.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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