米国はまるで時計仕掛けのように、再び政府機関閉鎖の危機に直面している。歳出の優先順位を巡り、与野党が対立しているためだ。

第1次トランプ政権の2018年に起こった米史上最長の閉鎖を含め、金融市場ではこれまで政府機関閉鎖は総じて大きく材料視されなかった。だが今回は、トランプ大統領が連邦職員の大量解雇を警告するなど、政治的な対立が先鋭化しており、リスクが一段と高まる恐れがある。

マクロ経済への影響は主に労働市場と金利見通しに現れる。トランプ政権は連邦職員の一時帰休ではなく大量解雇に踏み切る構えを示しており、雇用環境がすでに脆弱(ぜいじゃく)な中で失業保険申請件数を押し上げる恐れがある。さらに、経済統計の発表が停止される。まずは10月3日に予定されていた雇用統計の発表が延期となり、経済の先行きが一段と不透明になりそうだ。

インタラクティブ・ブローカーズのチーフストラテジスト、スティーブ・ソスニック氏は「今回の政府閉鎖は通常以上に影響が大きい可能性がある。閉鎖に突入する前からリスクが極めて高くなっているためだ」と指摘した。

さらに厄介なのは、米株高の継続でバリュエーションは過去の熱狂に匹敵する水準に達していることだ。低水準のボラティリティーに加え、投資家は年末のラリーを見越してポジションを取っている。資産価格が揺らげば強制的な売却を迫られ、下げがさらに加速する恐れがある。

一方、金相場は1オンス=4000ドル近くの史上最高値を付けた後も、安全資産としての妙味を維持する見通し。金の値上がりを支えている要因の1つはドル安だ。過去の政府機関閉鎖時にはドルが下落する傾向があり、これは円や場合によってはユーロに追い風となる可能性があるとING銀行は指摘する。米長期債も過去の閉鎖局面で、景気が弱含むとの連想から買われてきた。

「クーポンや債務の支払いがリスクにさらされることはない」と、モルガン・スタンレー・ウェルス・マネジメントで米政策責任者を務めるモニカ・グエラ氏は30日付リポートで指摘。「高水準の利回りを考慮すれば米国債は依然として魅力的であり、政府閉鎖リスクに敏感な投資家には米国債の保有比率引き上げを推奨する」と述べた。

以下、株式市場で積極的な姿勢を維持したい投資家向けに、政府閉鎖時の留意点をまとめた。

防衛株

RTX(旧レイセオン)、L3ハリス・テクノロジーズ、エアロバイロメントなどの防衛関連銘柄は、弾薬やドローン、ミサイル防衛装備への連邦支出拡大が収益の追い風となり、株価は上昇基調にある。29日の取引ではいずれも、ボーイングやロッキード・マーチンとともに過去最高値で取引を終えた。だが、政府閉鎖が投資家の熱気を冷ます可能性もある。

TDカウエンのアナリスト、ゴータム・カンナ氏は先週、「ファンダメンタルズ面で防衛関連企業への影響は大きくないとみているが、投資家心理は冷え込むかもしれない」とリポートで述べた。

シーポート・グローバル・セキュリティーズは今週、ゼネラル・ダイナミクス株に対する投資判断を「中立」から「買い」に引き上げた。政府機関閉鎖で株価が下がれば買いの好機になるとの見解を示した。

政府向け契約業者、航空株

ブーズ・アレン・ハミルトン、レイドス・ホールディングス、CACIインターナショナルといった政府向けにコンサルティング業務や技術サービスを提供する企業は、恩恵を受けにくい可能性がある。トゥルイストのトビー・ソマー氏によれば、過去の政府閉鎖時にこうした企業の収益は打撃を受けたものの、その影響は比較的小幅にとどまる傾向がある。ただ、長期化すれば利益に響く可能性が高い。

一方、航空会社も逆風にさらされる。年間収益の最大2%を政府関係者の出張に依存しており、政府関連の売上高が長期的に途絶えれば業界への打撃は大きい。さらに、給与を支払われなくなる数千人規模の連邦職員が余暇旅行を控える可能性があると、ジェフリーズでは指摘している。

景気敏感株

政府閉鎖による経済への影響が最大の焦点となる。成長を大きく減速させ、失業率を押し上げるほど閉鎖が長引けば、工業株や金融株への地合いは悪化する恐れがあると、BCAリサーチのチーフ地政学ストラテジスト、マット・ガートケン氏は話す。これらの業種は米経済の動向と密接に連動する。

「閉鎖が長引けば、投資家の視界に入っている多くのリスクに改めて注目が集まるだろう」と同氏は述べた。

キャタピラーやディアといった主要工業株は4月の安値から持ち直しているが、業界全体では依然として関税や製造業の減速といった逆風に直面している。

JPモルガン・チェースからアポロ・グローバル・マネジメントに至るまで、金融株も今年、景気懸念が浮上する中で不安定な値動きに見舞われた。消費者動向に左右されやすいアファーム・ホールディングスのような後払い決済サービス会社は特に振れが大きくなりそうだ。

ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の分析では、政府閉鎖中に64万人の連邦職員が一時帰休となれば、失業率は4.7%に上昇する。トランプ氏が恒久的な解雇に踏み切れば、閉鎖終了後も高止まりが続く可能性がある。

前出のガートケン氏は、景気循環株への打撃を懸念する投資家がヘルスケアや公益といったディフェンシブ銘柄に資金を移すかもしれないと話した。

ボラティリティーに備え

政府機関閉鎖に対する株式市場の反応はこれまで総じて限定的だ。トゥルイストのデータによると、過去20回の政府閉鎖でS&P500種株価指数は平均してほとんど動かなかった。ウォール街の投資家は今回も、ポートフォリオを大きく動かさずに動向を見守っている。

とはいえ、雇用統計などの発表遅延で金利見通しが不透明になれば、目先はボラティリティーが高まる公算が大きいと、ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティテュートのジェニファー・ティマーマン氏はリポートで指摘した。労働省労働統計局(BLS)は、政府閉鎖なら10月3日の9月雇用統計の発表を延期する方針で、予算を巡る対立が解消されなければ10月15日に予定される米消費者物価指数(CPI)にも影響が及ぶ恐れがある。

週内に製造業・サービス指数を発表予定の米供給管理協会(ISM)など、民間機関が公表するデータの重要性が今後増すと、RBCは指摘している。

長期的には、経済に打撃が及べば、すでに陰りが見え始めている株式相場の勢いを削ぐ恐れがある。

シーバート・ファイナンシャルのマーク・マレク最高投資責任者(CIO)は「市場はここから上値を追う機運に乏しい」と述べ、「現状ではこれが相場にプラスとは言い難い」と続けた。

原題:Traders’ Guide to US Markets If the Government Shuts Down(抜粋)

--取材協力:Carter Johnson、Felice Maranz、Matt Turner.

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