(ブルームバーグ):わずか3週間前、金の年初来上昇率は37%に達し、ここ30年余りで最良の年間パフォーマンスに向かっていると指摘されていた。それからさらに値上がりし、今では40年以上で最大の年間上昇率となる勢いだ。
投資家がインフレ終息への望みを失い、金が1年で倍以上に跳ね上がった1979年の熱狂以来、これほど力強く持続的な上昇はなかった。

もっとも、1979年の経験が示すように、金を「究極の通貨」と位置付けるには慎重さが必要だ。金は株式同様、投機的な熱狂に巻き込まれる資産でもある。
ただし、歴史が示すのは金の動きを無視することの危険性だ。米S&P500株価指数を金価格で割った株価のリターンを見ると、2020年代に入りむしろ目減りしている。

米国の株式相場が堅調に見える一方で、金がそれを上回るパフォーマンスとなっている背景には、通貨価値の低下があるとみられる。
米連邦公開市場委員会(FOMC)は先週の会合で、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を引き下げた。マネーサプライ(通貨供給量)も再び増加している。しかし、こうした動きは市場にとって大きな驚きではない。
パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長による最近の発言からは、FRBがなお政府からの利下げ圧力に抵抗できるとの姿勢がうかがえる。同議長は23日の講演で、「リスクの全くない道は存在しない」と強調する一方、10月に追加緩和を行う可能性について明確な言質を与えなかった。利息を生まない金にとって、利下げは価格押し上げ要因だ。

金価格を押し上げている最大の要因は政治である公算が大きい。米国に対する信認が揺らいでも、米株式相場は今年好調だが、各国はドル依存を減らすプランを模索しており、それが金需要として顕在化している可能性がある。
中国は外国が保有する金準備の保管国として名乗りを上げようとしているが、これは象徴的意味合いが大きい。だが、世界の金融システム再編は、一段の金需要拡大を示唆する。
1979年の金高騰はインフレを巡る理性を若干欠いた恐怖に支えられた側面があったが、今回の金価格急伸は各国・地域の中央銀行による合理的な計算が結果として原動力になっているようにも見える。金上昇はさらに長期化し得る。
(ジョン・オーサーズ氏は市場担当のシニアエディターで、ブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ブルームバーグ移籍前は英紙フィナンシャル・タイムズのチーフ市場コメンテーターを務めていました。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Gold’s Decade Shines Less Brightly for Stocks: John Authers(抜粋)
--取材協力:Richard Abbey.コラムについてのコラムニストへの問い合わせ先:New York John Authers jauthers@bloomberg.netコラムについてのエディターへの問い合わせ先:Andreea Papuc apapuc1@bloomberg.netもっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2025 Bloomberg L.P.