トランプ米政権が高度技能職向けの就労ビザ「H-1Bビザ」申請手数料を10万ドル(約1490万円)とする措置を導入し、米企業に衝撃が走っている。ただ、大手企業の多くは表立った反応を控え、政策の行方を見極めようとしている。

ホワイトハウスが19日に発表した新手数料は、特にエンジニアやプログラマーの採用で同ビザを活用してきたテクノロジー業界を中心に大きな動揺を招いた。さらに23日には毎年の抽選制度見直し案も公表され、報酬の高い申請者が選ばれやすくなる仕組みに変更される可能性が出てきた。

二つの措置を合わせると、長年米国に海外の人材を送り込む役割を果たしてきたH-1Bプログラムは大きな転換点を迎えることになる。

 

当初の混乱は、既存のビザ保有者や更新には新手数料が適用されないと政府が説明したことでいったん落ち着いた。医師など国家利益に資する一部職種に例外措置を設ける案も示されたが、2026年の抽選を前に不安は根強い。

経済団体パートナーシップ・フォー・ニューヨークシティーのキャスリン・ワイルド会長は、企業にとって静観する利点の一つはトランプ政権の反発を招かないことだと語る。「大統領は、自身の政策に関する表立った批判を経済界にためらわせている」と述べた。

また懸念はコストにとどまらないとも指摘し、「『米国が世界経済から撤退しつつあるのではないか』という本質的な問題だ」と述べた。

一方、マイクロソフトやアマゾン・ドット・コム、グーグルの親会社アルファベットなどは、現在H-1Bビザを保有する従業員や申請中の社員に対し、国外渡航を控え米国に速やかに戻るよう助言している。

 

21日に発効した10万ドルの手数料と報酬に基づく新たな選考制度は、法廷闘争に発展する可能性がある。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のリポートによると、仮に新たな手数料が維持されれば、テクノロジーや金融、医療などの高賃金分野にビザが再配分される一方、教育など報酬が比較的低い職種は不利になるとみられる。

ダートマス大学タック経営大学院のポール・アルジェンティ教授(企業コミュニケーション学)は「移民はこれまでも今後も極めて政治的に敏感なテーマだ。この問題に踏み込めば評判リスクが非常に大きい。企業が発言を避けるのは自然だ」と指摘した。

原題:Trump’s $100,000 Visa Fee Greeted by Silence at American Firms(抜粋)

--取材協力:Annika Inampudi、Paayal Zaveri、Jaewon Kang、Eric Fan、Denise Lu、Zachary R Mider、Alex Newman.

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