(ブルームバーグ):赤と青のパッケージに入った「イーグル 20’s」は価格に敏感な米国の喫煙者が選ぶ紙巻きたばこの一つだ。これほどお得なら米国製を選ぶのは簡単だと、ウェブサイトでうたっている。
コロラド州ロングモントの酒類販売店「ツイン・ピークス・リカー」のオーナー、ゲイリー・ブッフホルツ氏は「以前は高いブランドを買っていた人々が、今は安価な銘柄に向かっている」と話す。
経済的圧力や物価の上昇が米消費者を苦しめる中、「イーグル 20’s」「ピラミッド」「モンテゴ」といった比較的安い銘柄の売り上げ増を同氏は目の当たりにしてきた。
これら3ブランドは、いずれも日本たばこ産業(JT)傘下のJTインターナショナル(JTI)が所有するものだ。JTIは2024年10月、ブランドを保有していたベクター・グループを24億ドル(約3600億円)で買収した。
その後、低価格たばこの米市場シェアが27年までに40%超に達すると予測。22年時点では約32%だった。
ベクターの買収は、JTが競合他社と異なる道を歩んでいることを示す。
パンミュア・リベラムのアナリスト、レイ・マイレ氏は2月のリポートで、「はやりの見解ではないかもしれないが、紙巻きたばこは収益を生む。しかも大きな利益だ」と指摘。「JTIは、これを恥じていない」と説明した。
競合する米フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)や英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)は電子たばこや加熱式たばこ、ニコチンパウチなど「煙の出ない」製品を巡って野心的な目標を掲げてきた。これに対しJTIは、従来型のたばこ製品に注力している。
ベクターの買収に先立ち、18年にバングラデシュのアキジグループのたばこ事業を買収。またその前年にも、たばこ葉にクローブを混ぜた「クレテックたばこ」を生産するインドネシアのカリヤディビア・マハディカ(KDM)を取得している。
またJTIはたばこブランド、ウィンストンとキャメルに投資し、米国外で販売。ドイツやスペイン、イタリアといった市場でシェアを拡大している。同社はパッケージや風味、品質の向上に注力していると広報担当者が電子メールでコメントした。
こうした戦略は成果を上げてきた。同社の紙巻きたばこの販売量は24年に2%増加。売上高は9%、利益は10%増となった。
無煙製品は伝統的なたばこよりも健康へのリスクが低い場合があるものの、危険性がないわけではないと専門家は指摘する。
米疾病対策センター(CDC)によれば、ニコチンは中毒性の高い化学物質で、特に若年層や妊婦には危険だ。加熱式たばこ用スティックは燃焼させるタイプに比べ有害成分が少ないものの、安全なたばこ製品は存在しないという。
それでも、紙巻きたばこから害の少ない代替製品へと喫煙者の移行を進めていると他社が説明している中で、JTIの戦略は議論を招くものに見える可能性がある。
低リスク製品
JTIも加熱式たばこやニコチンパウチなどの「RRP」(リスク低減製品)への投資を進めているが、そのペースは緩やかだ。
加熱式たばこの本体「プルーム・オーラ」を5月から日本で販売し、今月にはスイスでも発売した。JTIは米国でのプルーム商業化に向けてアルトリア・グループと戦略的な合弁会社も設立した。
広報担当者によれば、JTIは22年-24年、リスク低減製品の品ぞろえ強化に向け3000億円を投じており、25年から27年にかけては6500億円超の投資を表明している。ただ、無煙製品の売り上げ目標は示していない。
有利な立場
米国市場でJTIは、安いブランドを保有していたベクター買収を通じ、有利な立場を得てきた。喫煙者はインフレや税引き上げに苦しみ、たばこメーカーは紙巻きたばこの販売量減少を補うため価格を引き上げている。
コンシューマー・エッジのアナリスト、コナー・ラティガン氏によれば、21年以降プレミアムブランドのシェアは着実に低下しており、分析対象のたばこの売上高に占める比率は、約80%から約70%に減少した。
「かつてと異なり、特定のブランドへの人々の忠誠心は薄れている。ブランドよりも価格を選ぶだろう」とシチズンズ・ロビーイング・アゲインスト・スモーカー・ハラスメント創設者、オードリー・シルク氏は語る。
ただ代替製品が世界的に普及する中でも、伝統的なたばこ産業は依然として規制が強く安定しており収益性が高い。
「紙巻きたばこは製造コストが比較的低く、顧客層は文字通り製品に依存している」とパブリック・ヘルス・ロー・センターの商業たばこコントロール・プログラムズ副ディレクター、デズモンド・ジェンソン氏が指摘する。
同氏の見解によれば、JTIによるベクター買収のようなディールの論理は明白だ。
「最も有害な製品に焦点を当てた事業分野拡大のために、なぜ資金を投じるのか。答えは非常にシンプルだ。圧倒的に最も収益性の高い商業用たばこ製品だからだ」と語った。
(ブルームバーグ・ニュースの親会社、ブルームバーグLPの創業者で過半数株主であるマイケル・ブルームバーグ氏は、自身のブルームバーグ・フィランソロピーズを通じて、世界的なたばこ使用の削減や米国における若年層の電子たばこ使用の削減に向けた取り組みを支援している)
原題:Japan Tobacco Is Doubling Down on Cheap Cigarettes in the US(抜粋)
--取材協力:Fumbuka Ng'Wanakilala、谷本慧美.
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