(ブルームバーグ):オーストラリアのホラー映画で描かれた同性カップルが、中国本土での公開に当たり異性のカップルにデジタル改変されていたことが分かった。人工知能(AI)が使われた可能性が高く、検閲の新たな局面を示す動きとみられる。
映画「Together」では、同性愛関係にある男性カップルのうち1人の顔が女性に置き換えられていた。この編集は観客の反発を呼び、多くの人が、SNS上で改変前のシーンと比較する投稿が出回って初めて改変に気付いたという。
映画の評価・交流サイト「豆瓣」では、あるユーザーが「これはオリジナル作品への侮辱で、観客の忍耐に対する新たな挑戦だ」と投稿。「LGBTコミュニティーに対しても失礼だ」とコメントした。
9月12日に中国で先行上映が始まったこの映画を鑑賞した4人は、1分ほどの場面で異性カップルが登場していたとブルームバーグに語った。その時は特に違和感を覚えなかったが、その後SNSを通じて編集が行われていたことを知ったという。4人はいずれも当局からの報復を恐れ、匿名を条件に取材に応じた。

中国国家電影局は編集やAIの使用に関する質問に回答しなかった。中国の配給会社チャイナ・フィルム・デジタル・ムービー・デベロップメント(北京)と米国の配給会社NEONレーテッド、およびマイケル・シャンクス監督は、電子メールによる問い合わせに応じなかった。
中国のLGBTQ支援団体を創設した1人は今回の件を「中国におけるLGBTQ+の表現を抹殺するさらなる一例」と受け止めていると匿名を条件に語った。AIの活用はより厳格かつ徹底的な検閲を可能にし、性的少数者への社会的理解を一層損なうと指摘した。
批判が高まる中で、中国の配給会社は先週予定されていた全国公開を前日に中止。「配給計画の変更」を理由に挙げ、新たな公開日程は示していない。この作品は批評サイトのロッテン・トマトで90%の支持を得ている。
出産奨励
キャラクターの置き換えにAIが使われた可能性は、社会的または政治的に不適切とされる内容を長年にわたり厳しく制限してきた中国における検閲の進化を示している。従来は場面ごとに削除されるケースが多く、しばしば筋書きに矛盾が生じていた。
2019年には英ロックバンド、クイーンを描いた映画「ボヘミアン・ラプソディ」の中国版からフレディ・マーキュリーさんの性的指向に関する言及が削除された。
22年には米ワーナー・ブラザースが「ハリー・ポッター」シリーズ最新作の中国公開に際し、同性関係に触れたせりふを削った。中国の配信プラットフォームは同年、米人気ドラマ「フレンズ」からレズビアンのキャラクターに関する部分を削除している。
今回の編集が配給側による事前の自主検閲なのか、当局から直接的な指示があったのかは不明だ。いずれにせよ、映画やテレビからLGBTキャラクターを消す動きは、中国共産党の習近平総書記(国家主席)の下で進む保守的な社会政策を反映している。
中国では同性愛が1997年に非犯罪化された。しかし、党や政府は市民社会への統制を強め、LGBTQ団体の活動の場を狭めている。2023年には北京LGBTセンターなどの団体が閉鎖に追い込まれた。少子化対策として出産奨励を掲げる当局の方針は、非伝統的な家族像の容認を人口政策に対する脅威と見なす面もあるようだ。
原題:China Film Edit Alters Gender of Gay Character Via Face Swap (1)(抜粋)
--取材協力:Colum Murphy.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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