台湾は長年にわたり、最先端半導体を各国に供給するという自らの優位性を、中国の侵攻から身を守る盾としてきた。そして今、台湾当局は半導体を外交上の「剣」として試している。

台湾政府は23日、「国家と公共の安全を損なう行為」に対抗するとして、他国への一方的な半導体輸出規制を初めて発動し、南アフリカへの出荷を制限した。台湾との関係を弱める南アフリカとの、長期間にわたる対立の新たな展開だ。中国は、外交関係を結ぶ国々に、台湾との関係希薄化を迫っている。

匿名を条件に語った台湾政府関係者によると、この半導体規制は、経済・貿易政策の外交目的のための活用を勧めるという台湾の戦略を反映している。同様の措置が今後、他の非友好的な国にも適用される可能性があるという。

The US is revoking TSMC’s waiver to send chip supplies to China. Bloomberg’s Michael Shepard discusses what’s behind the move and the impact it will have, on “Bloomberg Tech” with Caroline Hyde and Ed Ludlow.

米シンクタンク、大西洋評議会グローバル・チャイナ・ハブのウェンティ・スン非常勤フェローは「世界の半導体供給網における地位の活用は、台湾政府が国際舞台で自律的な抑止力を構築しようとしている試みに見える。今後、各国政府はこの事例を注視し、台湾の『アメ』だけでなく潜在的な『ムチ』についても考慮するようになるだろう」と語った。

サプライチェーン

台湾が欧州主要国や、最大の軍事的後ろ盾である米国にこうした規制を行使する可能性は低いものの、小規模なパートナー国を狙い撃ちした台湾の措置は、同国の半導体支配力への懸念をさらに増幅させる可能性がある。米国のレモンド商務長官(当時)は2022年、米CBSに、米国の台湾への半導体依存を欧州のロシア産石油依存に例えて「われわれはこのような脆弱な立場に甘んじてはいられない」と語っていた。

台湾積体電路製造(TSMC)の技術力を真似るには、ほとんどの国で途方もない時間と資源が必要となる。ただ、米政府の対応は代替策の一つとなっている。米国はすでにサプライチェーン(供給網)の多様化を進めており、TSMCに米国内での工場建設を促す一方、自国の半導体産業も支援している。

近年、半導体や製造装置の輸出規制は、米中対立の主戦場となっている。米政府はオランダ、韓国、日本などの同盟国に対し、自国企業への打撃が予想されるにも関わらず、輸出規制に従うよう迫ってきた。たとえ友好国との関係であっても、サプライチェーンにおける一定の自立性を維持する必要性が一層高まっている。

台湾の頼清徳総統が威圧に対抗する姿勢を強める中で、中国は、台湾の規制の影響を最も強く受けやすい立場にある。今年、台湾は中国の通信大手華為技術(ファーウェイ)や中芯国際集成電路製造(SMIC)を、半導体工場建設に不可欠な技術へのアクセスから排除し、貿易政策を強化する意思を示した。

中国外交部の郭嘉昆報道官は24日、北京での定例記者会見で、台湾が南アフリカに対して取った措置により「世界のサプライチェーンを意図的に不安定化させた」と批判した。その上で「われわれは半導体を含むさまざまな分野で協力を拡大する用意がある」とした。

自衛

南アフリカは1997年に事実上の台湾との外交関係を断絶している。今回の対立は、南アフリカでの台湾の事実上の大使館を巡るものだ。

台湾によると、中国の習近平国家主席が出席した2023年のBRICSサミット直後から、南アフリカは、首都プレトリアにある台湾の代表処をヨハネスブルグへ移転するよう圧力をかけ始めた。11月に予定されている20カ国・地域(G20)首脳会議の開催準備が進む中で、南アフリカはこの要求を一段と強めている。G20首脳会議には習氏が出席する見込みだ。

南アフリカ経済は、外国の自動車メーカー工場に大きく依存している。台湾当局者によると、規制措置が影響を及ぼす可能性はあるものの、自動車メーカーは一般的に、台湾の製造業者から直接ではなく、世界の自動車大手を通じて半導体を調達している。

当局者は、措置は南アフリカへの最大限のダメージを意図したものではないとしている。台湾の公式データによると、今回の規制対象品目の南アフリカへの輸出は、昨年で約400万ドルに過ぎず、今回の措置は象徴的な意味合いが強い。

台湾が正式な外交関係を維持している国は残り12カ国しかない。中国が関係と引き換えに各国へ台湾との断交を迫る中、その数は減少している。非公式な交流ですら監視の目が強まっている。

国際危機グループの北東アジア担当上級アナリスト、ウィリアム・ヤン氏は、台湾が南アフリカにとった今回の行動を単なる「自衛」と表現し、ある地域では連帯感を喚起する可能性があると述べた。同氏は「今回の措置は、志を同じくする民主主義国家が、台湾とのサプライチェーン協力を一層深めるきっかけになるかもしれない」としている。

原題:Taiwan Weaponizes Chip Sector to Deter China on World Stage(抜粋)

--取材協力:Debby Wu、Philip Glamann、林妙容.

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