日本に関する常識を問い直す必要がある。インフレの心配がないと見なすのはもはや妥当ではなく、政治的安定も自明でなくなりつつある。

約1年前に首相に就任したベテラン政治家の石破茂氏が辞任するとのニュースが伝わった。衆院選でも参院選でも自民党が大敗したことを考えれば、当然の帰結だ。

日本は今、伝統的な与党が弱体化し、分裂の可能性すら浮上している一方、ポピュリスト色の強い右派的な野党の台頭という、英国やフランス、ドイツと奇妙に似た状況に直面している。

長らく待たれていたデフレ克服が問題の一因かもしれない。債券市場のブレークイーブンレート、つまり市場が織り込む平均インフレ率は、今後5年間の物価上昇率が年平均2%以上になると示唆。インフレ期待が戻ってきたことを示している。

これは一定の利点をもたらす一方で、インフレが問題ではなかった約30年を経た日本で、国民の生活水準に思わぬ影響を及ぼす可能性がある。

昨年9月の自民党総裁選で予想外の勝利を収めた石破氏だが、その直後に打って出た10月の衆院選でも今年夏の参院選でも、与党として過半数を得られなかった。辞任は時間の問題と広く受け止められていた。

日本の政界は今、あまりにも複雑だ。そのため、政治の停滞は避けられない。ニュースレター「ジャパン・オプティミスト」を発行するエコノミストのイェスパー・コール氏は、自民党が次期総裁を選出する過程で「4-8週間にわたり政治家は自らの地位と職を守ることだけに没頭する」と予測している。

与党が衆院で過半数割れとなっていることから、自民党総裁がすんなり首相に就任できるわけではない。

世界はこれまで、円を通じて安価な資金を供給する合意形成型の日本に慣れてきた。現状からの大きな変化が今後数週間以内に起こる公算は小さいが、以前よりもずっと現実味を帯びており、その影響は国境を超えて及ぶことになる。

8日午前の東京株式市場では主要な株価指数が上昇。政治の不確実性が円相場に影響した兆しも見られなかった。円は新型コロナウイルス禍後の世界的な金利動向に大きく左右されているが、この状況が今後も続くとは限らない。

日本の政治的不安定を、市場が気に留めていないのには理由がある。コール氏は次のように説明する。

日本で実質的な政策転換が起こるリスクは低下している。理由は2つある。a)自民党の新総裁は他党の支持を得るため妥協を迫られる。b)法案を成立させるため政治的駆け引きに頼る首相に、エリート官僚機構は自らのエネルギーや行政資源を投じることに極めて慎重になる。

政治家が対立を深める中で、官僚機構の権限がむしろ強まる可能性がある。日本ではこうした状況が「ディープステート(闇の政府)」と呼ばれることはないが、国民にとって朗報とは言い難い。だが、市場にとっては追い風となるだろう。

(ジョン・オーサーズ氏は市場担当のシニアエディターで、ブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ブルームバーグ移籍前は英紙フィナンシャル・タイムズのチーフ市場コメンテーターを務めていました。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Markets Are Wondering What It All Means: John Authers(抜粋)

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