(ブルームバーグ):ジュネーブで毎年9月に開催される恒例行事「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ」にスイスの時計メーカーが集まった。トランプ米大統領の関税措置による影響が懸念されるが、参加者らは楽観的に振る舞っていた。 しかし、米国に出荷済みの在庫が尽きれば、状況は一変する可能性がある。
7月にスイスからの輸出が増加したことで、8月に発動されたスイス製品に対する39%の関税の影響は、少なくとも当面は顕在化しない見通しだ。会場では、スイス当局が関税見直しに向けた交渉で一定の成果を挙げる可能性に期待する声が目立った。
高級腕時計メーカー、ブライトリングのジョージ・カーン最高経営責任者(CEO)はイベント開幕に際し3日、「この問題は今後数週間から数カ月のうちに解決するか、少なくとも部分的には改善されるはずだ。だから前向きでいよう」と語った。「各社とも念のための計画や数カ月分の在庫を準備している」と付け加えた。
スイスの製造業を狙い撃ちにしたかのような関税措置は、米国製造業の再興を掲げるトランプ氏の戦略の一環だが、欧州連合(EU)が合意した15%程度の課税を想定していたスイス政府の関係者にとっては衝撃だった。スウォッチ・グループやカルティエの親会社リシュモンといったスイスの輸出業者は、先進国の中で最も高い関税率に直面することになった。
高級時計メーカーは既に、地政学的緊張の高まりや金価格の高騰が需要を冷やすという問題に直面している。スイス時計協会(FH)によると、米国はスイス時計ブランドにとって最大または2番目の市場であり、2025年1-6月(上期)には米国向け輸出が全体の約20%を占め、額にして26億スイスフラン(約4800億円)に上った。
時計メーカー側の対応はまちまちだ。1737年創業の老舗ブランド、ファーブル・ルーバは、インド市場に続く販路拡大策として計画していた米国市場への参入を、関税率が発表されると直ちに停止した。パトリック・ポール・ホフマン会長が明らかにした。
「この関税が3-4カ月を超えて長期化するようであれば、スイスの時計業界にとって相当な打撃となるだろう」と同会長は語った。
一方で、方針を変えずに事業を続行する企業もある。リューズを保護することにより完全な防水性を実現したダイバーズウオッチで知られるZRC1904は、数カ月前から進めていた米国内の小売店の拡大計画を、関税発効後も継続している。
関税発効前に米国に商品を送り込もうとする動きが、7月の輸出を押し上げた。米国向け輸出は前年同月比6.9%増となったが、米国向けを除いた輸出は0.9%減と、業界の苦戦を浮き彫りにした。
ブルームバーグ・インテリジェンスは、7月から8月上旬にかけての米国向け在庫積み増しの反動で、輸出の減少傾向が再び顕在化すると予測している。
ジュネーブでは、66ブランドがホテルの一室やブース、展示スペースに自社製品を並べた。経営陣は、今後の状況は関税の行方次第だとの見方を示した。
スイスの通商交渉担当者は関税引き下げに向けた交渉を続けている。ジュネーブ州経済・労働局を所管するデルフィーヌ・バッハマン州参事会員は、「より良い条件を得られることを期待している。欧州との差には本当に驚いている」と語った。
スイス代表団は5日、ワシントンで米政府関係者と通商協議を行った。パルムラン副大統領はX(旧ツイッター)への投稿で、会談は「建設的だった」としつつも詳細には言及しなかった。
原題:Swiss Watchmakers Sound Upbeat on US as Long as Stocks Last (1)(抜粋)
--取材協力:Zoe Schneeweiss、Levin Stamm.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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