9月の利下げがほぼ確実視される中、オプション市場では、11日の米消費者物価指数(CPI)発表後も株式市場は順調に推移するとの見方が広がっている。だが、インフレが再び加速する兆しが見られれば、こうした見通しは危うい賭けになりかねない。

16、17両日の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合で利下げが見込まれる背景には明快な論理がある。米国では雇用の伸びが鈍化しており、景気を後押しする強い刺激が必要とされている。

そうした見方は5日に発表された8月の雇用統計で非農業部門雇用者数の増加が市場予想を下回り、失業率が2021年以来の高水準に上昇したことで一層強まった。この結果、投資家は来週の会合について0.25ポイントの利下げを完全に織り込んだ。

雇用統計に対する市場の反応は冷静だった。5日の株価は小幅下落。シカゴ・オプション取引所(CBOE)ボラティリティー指数(VIX)はやや上昇したものの、重要な節目である20を下回ったままで、6月以降の流れに変化はなかった。

パイパー・サンドラーのデータによると、オプション市場では11日のCPI発表後にS&P500種株価指数が上下どちらかに約0.7%振れると予想されている。これは、過去1年間の実現ボラティリティー平均(1%)を大きく下回る水準だ。

このような取引は株式市場の足元の見方に照らせば合理的だが、大きなリスクを見落としている。つまり、もしインフレ指標に大きなサプライズがあった場合にどうなるかということだ。

コメリカ・ウェルス・マネジメントのエリック・ティール最高投資責任者(CIO)は「それは現時点でかなり微妙なバランスの上に成り立っている。非常に良いニュースでも悪いニュースでも、見通しが変わってしまう」と語る。

インフレが高止まりするリスクは現実のものとなっている。トランプ米大統領の貿易戦争や強硬な移民送還措置、政府職員削減がその要因となり得る。こうした状況に伴い、年内の米利下げがトレーダー期待ほど大幅なものにならない可能性もある。

ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティチュートのグローバル株式・実物資産部門責任者サミーア・サマナ氏は「利下げの道筋がやや浅くなり、市場にボラティリティーが生じるかもしれない」と述べた。

Source: Asym 500

市場はすでに9月の利下げを完全に織り込んでおり、今後1年間で計142ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げが見込まれている。こうした中でインフレの粘着性が示されれば、投資家がハト派的な見通しを修正する必要に迫られ、株式市場は大きく揺れ動く可能性がある。

実際、市場関係者は再び高いインフレ率に身構えている。食品とエネルギーを除いたコアCPIは8月に前月比0.3%上昇、前年同月比では3.1%の伸びが予測されている。これは前月と同じ数字で、米連邦準備制度の目標である2%を大きく上回る水準。

 

原題:Traders Brush Off Inflation Risk as They Bet on Smooth Rate Path(抜粋)

(10段落目以降を追加して更新します)

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