(ブルームバーグ):石破茂首相(自民党総裁)は7日の記者会見で、辞任する意向を表明した。

昨年10月の首相就任から1年足らずの退陣表明となる。石破首相は米国との関税交渉に一つの区切りがついたとして、「後進に道を譲る決断をした」と述べた。辞任表明を受けて行われる総裁選には出馬しないと明言した。
石破首相は物価高対策などに取り組むとして続投する意向を示していたが、自民党内で首相交代につながる総裁選前倒しを求める声が拡大。参院選総括を受けて森山裕幹事長らが辞意を表明し、政権運営は厳しさを増していた。
退陣表明に伴い、8日に予定していた臨時総裁選実施に関する国会議員の意思確認は中止する。石破首相は、意思確認を実施することになれば「党内に決定的な分断を生みかねないと考えた」と話した。
自民は新総裁で国会での首相指名選挙に臨むが、与党は衆院でも過半数割れしており、野党の対応次第で新総裁が首相に選ばれない可能性もある。総裁選では物価高対策や日米関税交渉などに加え、連立拡大を含めた野党との協力の在り方などが争点になる。
これまで政治情勢が不安定化し続けたことで政策運営は停滞していた。双日総合研究所の平田明日香・主任研究員は「誰が自民党総裁になっても野党との隔たりは残る。国会で多数派を形成できなければ、政策が進まない構図は変わらない」と指摘する。
市場に影響
市場はおおむね、石破首相が政権を長期的に維持できない可能性を織り込んでいたものの、辞任により、さらなる不安定化リスクに直面する。週明け8日のアジア市場の取引開始時には円相場に下押し圧力がかかる恐れがある。円は先週、弱含みの動きをみせ、対ドルで0.3%下落した。
石破首相の後任が財政支出を拡大する可能性が高まれば、長期国債には一段の売り圧力がかかり、利回り上昇につながる公算が大きい。一方で、不透明感が強まることで日銀の次回利上げ判断が先送りされるとの見方が広がれば、イールドカーブの短期部分には支援材料となる可能性もある。
株式市場については、円安進行や追加の財政刺激策観測が浮上する局面で恩恵を受けやすい傾向がある。
T&Dアセットマネジメントの浪岡宏チーフストラテジスト兼ファンドマネジャーは、「この先は昨年の総裁選の再来になる可能性も意識され、仮にそうなれば候補者はそれなりにいて、かえってマーケットは動きにくくなりそうだ」と話す。財政の緩みが意識されることから、超長期金利は上振れると予想した。
「ポスト石破」
自民党内では、後任を決める総裁選に向けた動きが本格化する。立候補には20人以上の議員の推薦が必要となる。後任の総裁候補としては、昨年の総裁選で決選投票を争った高市早苗前経済安全保障担当相に加え、小泉進次郎農相、林芳正官房長官、小林鷹之元経済安全保障担当相らの名前が取り沙汰されている。
元同党職員で政治評論家の田村重信氏は臨時総裁選の意思表示が行われた場合は賛成、反対で党が分裂状態になることから、「その前に退陣を決断したということだろう」と分析した。後任には高市、小泉両氏らが名乗りを上げるとの見方を示すが、首相に直接決断を促したとされる小泉氏が最有力とみている。
首相の退陣表明について、経団連の筒井義信会長は政治を前に進めるために重い決断をされたと受けとめているとのコメントを発表。「内外には待ったなしの重要政策課題が山積している」とし、新首相には、党内の結束を図ったうえで「安定した政治の態勢を確立し、政策をスピーディーに遂行していただきたい」と求めた。
(エコノミストのコメントなどを追加し、更新しました)
--取材協力:小宮弘子、南部真帆.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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