(ブルームバーグ):新たに開港する西シドニー国際空港では、乗客が飛行機を降りた瞬間から、目の前にオーストラリアの大自然が姿を現す。
空港の大きな窓からは遠くの山々が望め、ユーカリを思わせる柱や砂岩の壁が、屋外の地形と呼応するように設計されている。
総工費53億オーストラリア・ドル(約5100億円)をかけたこの空港では、今後数カ月以内に試験飛行が開始される予定で、2026年の開港時には年間約1000万人の乗客を受け入れる見通しだ。
空港の中心には、到着・出発の両機能を備えたターミナルが設けられている。設計は建築事務所ウッズ・バゴットが担当し、初期コンセプトはザハ・ハディド・アーキテクツとコックス・アーキテクチャーが手がけた。
このターミナルは、旅行者を移動させる場であると同時に、地域の自然美を体感できる空間として構想されており、閉塞感のある空港体験とは一線を画すものとなっている。
利用者の体験は、設計プロセスの重要な柱となった。ターミナルの大部分は窓に囲まれており、チェックインから離陸までブルーマウンテンズの眺望が楽しめる。
混雑した保安検査場や雑然とした売店、密閉された通路など、飛行機に乗るまで、押し込まれるような窮屈さを感じる空港の典型的なイメージとは対照的に、このターミナルでは天井が高く、どこに立っても外の景色を見渡せる視界の広さが確保されている。
「このターミナルが目指したのは、明るさ、開放感、そして眺望だ」と、ウッズ・バゴットのオーストラリア・ニュージーランド運輸部門を統括するニール・ヒル氏は最近行われた内覧会で語った。
「狭い機内から降り立ち、この広々とした空間に足を踏み入れると、まるで解き放たれたような気持ちになるはずだ」。
先駆的なオーストラリア人女性パイロット、ナンシー・バード・ウォルトン氏の名を冠したこの空港は、シドニー西部の都市化を加速させる重要な起点と位置付けられている。
空港を核とした新たな郊外型「エアロトロポリス(空港都市)」の形成を目指し、周辺では今後、イノベーション拠点や住宅地の開発、道路整備などが進められる予定だ。
空港の建設地は、シドニー中心部のオペラハウスやハーバーブリッジから車で西へおよそ1時間。市街地から郊外へ向かう途中には、住宅地や農地、牛の放牧地が広がるエリアもある。
工事が最終段階を迎えている今もなお、こうした自然の風景は現地に色濃く残っている。最近、建設中の空港の一角にカンガルーの群れが姿を見せたこともあった。
建築家は、急速に進む開発と、ユーカリの林や砂岩の崖といった、絵はがきのようなオーストラリアらしさを感じさせる景観との橋渡しとなるよう、ターミナルの設計に取り組んだ。
「使っている色調は全てこの地域に根差したものだ」と、ニール・ヒル氏は語る。「この空港に降り立った瞬間、ここはシドニーだと感じられるようにしたかった。他のどこでもない、シドニーに来たのだと」。
館内の砂岩の壁には、横方向に層を成すようなくぼみが施されており、ブルーマウンテンズに見られる堆積岩の風合いが表現されている。
穏やかに波打つような天井と先細りの柱は、訪れた人々がまるでユーカリの森を歩いているかのように感じられるように設計されており、日差しを和らげる役割も果たしている。
設計に当たっては、現代の空港にありがちな混雑感やストレスを極力抑える工夫も凝らされた。暗くなりがちな保安検査エリアにも十分なスペースが確保されており、列に並びながらでも山々の景色が望めるよう視界が開けている。
全体の配色も落ち着いたトーンで統一されている。中央の開放的空間周辺の商業施設エリアには、ベージュやブラウンなどの控えめな色合いが配され、この地域の豊かな自然美と調和している。
搭乗ゲートの高い天井からは、深紅に染まる地域特有の夕焼けも望める。
「こうした設計の一つ一つが、この地域とのつながりを感じさせる」とヒル氏は説明した。
原題:Sydney’s New Airport Will Take Travelers Into the Wild(抜粋)
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