ごく最近まで、ラグジュアリー旅行と言えば見ることとともに見られることも目的だった。だが今や、公の視線から完全に消えることが究極のステータスになっている。

かつて富裕層が好んだ定番、サントロペのクラブ55で陽光に照らされたテーブルを確保する、イビサのカラ・ホンダル・ビーチで最前列のデッキチェアに陣取る、ミコノス島ナモス・ビーチ沖にいかりを下ろす、といったアクティビティーは、いまやインフルエンサーたちに占拠されてしまった。その結果、匿名性と慎ましさこそが、現代の超富裕層にとって最も価値のある要素となった。

2025年現在、ファッション界では「ステルスウェルス(控えめな富)」が派手さに取って代わられつつあるが、旅行の分野では依然として「ステルストラベル」が主流だ。

世界の富裕層1%と億万長者を顧客とするトラベルコンサルタント会社シエナ・チャールズのジャクリン・シエナ・インディア最高経営責任者(CEO)は「典型的な高級リゾートから離れ、より高いプライバシー性と排他性を備えた目的地を求める傾向が強まっている」と話す。

顧客はたどり着くのに手間がかかる場所を好むようになっている。あえて定番スポットを避け、大衆の手が届かない体験を求める姿勢の表れだという。

例えば、イタリアのコモ湖ではなくオルタ湖、フランスのカンヌではなくコルシカ島、ギリシャのミコノス島ではなくパトモス島、スペインのマヨルカ島ではなくメノルカ島といった具合だ。

カリブ海ではサン・バルテルミー島のような著名なスポットではなく、コモ・パロット・ケイやジャンビー・ベイ・アイランドといったプライベートアイランド型リゾートが選ばれている。

こうした傾向は、超富裕層だけでなく、より広い層のラグジュアリー旅行者にも波及しており、老舗ホスピタリティーブランドの拡張戦略にも影響を及ぼしている。

各ブランドは、こうした次なる人気スポットに新たなリゾートを建設するだけでなく、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以降に需要が急増したプライバシー重視の設計思想を取り入れている。

高級旅行会社インダガレの創業者メリッサ・ビッグス・ブラッドリー氏は「最近のホテルは、コテージのような独立型宿泊施設を増やしている。リゾート内にいながら、まるでビラを借りたかのようなプライバシーを確保できるようにするためだ」と話す。

誰にも知られず旅を楽しみたいー。そんな願いをかなえる、秋以降も快適に過ごせる欧州の隠れ家を紹介しよう。

フランス:コルシカ島

フレンチリビエラの華やかさを求めつつも、人混みを避けたい旅行者にとって、より控えめな選択肢が注目を集めている。その筆頭がコルシカ島だ。荒々しくも映画のワンシーンのような自然が広がり、観光客の少なさが逆に贅沢に感じられるこの島では、手付かずのビーチや、プライベートヨットに理想的な入り江、人目を避けた静かな隠れ家が待っている。

アクセス方法:

パリからは約90分のフライトでコルシカ島に到着できる。

スロベニア:ヤスナ湖

アルプスとアドリア海の間にひっそりと位置するスロベニアは近年、欧州で最も満足度の高いラグジュアリーな隠れ家として静かに注目を集めている。

この国の食文化は、アルプス、地中海、スラブの風味が巧みに融合した奥深い味わいが特徴。ブルダやビパバ渓谷などワインの産地では、パリの名店で出されるようなナチュラルワインを手がけるブティック生産者が続々と登場している。

そして何より、息をのむような自然美が魅力だ。氷河に由来する湖、深い森、そしてスイスにも劣らぬ険しくドラマチックな山並みが、心を打つ風景をつくり出している。

アクセス方法:

パリ、フランクフルト、チューリヒなど欧州主要都市からスロベニアの首都リュブリャナまでは、いずれも2時間以内のフライト。

イタリア:オルタ湖とドロミーティ

ベネチアにはジェフ・ベゾス気取りの旅行者が集まり、アマルフィ海岸は観光過多に近づく中、ピエモンテ州のオルタ湖が、静けさを求める旅人にとって穏やかな代替地として注目されている。

おすすめの宿は、客室わずか11室のブティックホテル「カーサ・ファンティーニ」。宿泊者は電動ボートを借りて、人目を避けながら湖上を自由に巡ることができる。ホテルのスタッフが出発前にピクニックバスケットを用意してくれるので、その日の予定を気ままに決められる。

オルタ湖はイタリア北西部に位置するため、そこから東にあるドロミーティまでは車で約4時間かかるが、この2つを組み合わせる旅程は人気が高い。

アクセス方法:

オルタ・サン・ジュリオへは、ミラノから車で約60-90分。ドロミーティだけを目指すなら、ベネチア空港からドロミーティ観光の玄関口コルティナまで車で約2時間。

スペイン:メノルカ島

イビサ島のナイトライフやマヨルカ島の洗練された五つ星リゾートの陰に長らく隠れていたメノルカ島が、バレアレス諸島で意外な注目株として頭角を現している。数えきれないほどのハイキングコース、肩肘張らないビーチクラブ、そして希少な鳥類の生息地でもある自然保護湿地など、豊かな自然と静かな魅力にあふれた島だ。

「イビサやマヨルカよりも、はるかに落ち着いた雰囲気だ」とシエナ・インディア氏は話した。

近年注目を集めているのが、修復された古農家を活用した2軒の宿泊施設、サンタ・アナとソン・エルミタ。

200年の歴史を持つフィンカ(農家)を丸ごと1グループで貸し切るサンタ・アナは、全6室を一括予約する必要がある。友人同士のグループ旅行や大家族での滞在にぴったりだ。

全11室のソン・エルミタはより一般的なスタイルで、1部屋単位の宿泊予約が可能。

いずれも、海沿いのハイキングや人目の少ないビーチでのカヤック、島の中央にあるハウザー&ワースの先進的なアートギャラリーへの日帰り旅など、リラックスしたアクティビティーの拠点として最適だ。

アクセス方法:

メノルカ島へはバルセロナから飛行機で約1時間、マドリードからでも約90分と手軽にアクセスできる。

原題:Secret European Destinations the Wealthy Are Prioritizing Now(抜粋)

記事についてのエディターへの問い合わせ先:Nikki Ekstein nekstein@bloomberg.net

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