(ブルームバーグ):上場企業を暗号資産(仮想通貨)購入のビークルへと転換する動きが過熱しており、その資金調達を担う企業の幹部らでさえも、デジタル資産価格に与える影響を警戒している。
アドバイザー企業アーキテクト・パートナーによると、いわゆる「デジタル資産トレジャリー(DAT)」企業は2025年にビットコインの購入目的だけで合計790億(約11兆6700億円)を調達する計画を明らかにしている。しかし、市場参加者を不安にさせているのは、小規模な仮想通貨への進出拡大と、資金調達件数そのものだ。
この動きはビットコイン以外の仮想通貨「アルトコイン」が4月の安値から回復するのを後押ししたが、価格の急反転が一部で保有資産の売却を促し、売り圧力をさらに強めるとの懸念もある。DAT企業の株価が急落し、時価総額が純資産価値を大幅に下回るような状況になれば、売却の引き金になり得ると、同幹部らは指摘している。
ビットMEXの共同創業者、アーサー・ヘイズ氏のファミリーオフィス「メイルストロム」の責任者、アクシャト・バイディア氏は「主要なDAT企業の崩壊が、この強気相場の終えんを招くドミノ効果を引き起こすだろう」と警告した。同氏は、仮想通貨購入へ転換する上場企業3社の投資を監督しており、毎週5-10件のDAT案件の提案がなお持ち込まれていると明らかにした。
アーキテクト・パートナーズの推計によると、DAT企業は今年、イーサリアムやソラナ、トンコインなど含むアルトコインの蓄積のために、約250億ドルの資金調達計画を発表している。
ビットコインの優位性
現時点では、暗号資産の保有者が売却を迫られている証拠はほとんどない。しかし、いくつかの主要なDAT企業の株価が急落している。20億ドル相当のビットコインを保有する日本のホテル運営会社、メタプラネットの株価は6月中旬の高値から約50%下落。今年ソラナ購入に事業転換し、メイルストロムが投資したユペクシーは4月下旬以降に時価総額の約3分の2を失っている。
ビットコインは小規模な暗号資産よりも価格変動が小さく、流動性が高いことから、下落リスクは比較的低いとみられている。もう一つの緩衝材は、ビットコイン最大の保有者で、700億相当の保有高を築いたマイケル・セイラー氏のストラテジー(旧マイクロストラテジー)が保有開始から5年間、全く売却していない点だ。
暗号資産業界のトップ経営者の一部は、急増するDAT企業に対して慎重な見方を示している。ギャラクシー・デジタルのマイケル・ノボグラーツ最高経営責任者(CEO)は5日、新たなDAT設立ラッシュはピークに達した可能性が高いと述べた。
アルトコインは著しい価格変動で知られており、強制売却と価格急落の連鎖という悪循環のリスクを高めている。小規模な仮想通貨の指数は今年すでに55%余りの下落または上昇のサイクルを3回経験しており、7月22日に5カ月ぶりの高値を付けた後、現在は約15%下落している。

アーキテクト・パートナーズの分析によると、仮想通貨を蓄積する約30社のリターンは事業転換を発表してから中央値で3%だが、発表当日の急騰を除くと、11%のマイナスリターンになっている。
市場で注目を集めている指標の一つに、DATの企業価値と暗号資産保有額の比率である「mNAV」がある。仮想通貨マーケットメーカー(値付け業者)であるウィンターミュートのエブゲニー・ガエボイCEOは、弱い企業はmNAVが1を下回ると、売却を開始する可能性があると指摘している。
メタプラネットのウェブサイトによると、現在のmNAVは2.39。ユペクシーは1.7だ。
ガエボイ氏は「アルトコインが弱気相場に突入した場合、アルトコインを多く抱えるDAT会社が最も打撃を受けるというのが現在の私の見方だ」と述べた。ウィンターミュートがまだ公表されていない取引で「数社」のDAT会社に投資していることも明らかにした。
内部関係者の売り
DAT会社の資金調達から最大限の手数料を得ようとするバンカーは、質を無視して可能な限り多くの案件を押し出していると、メイルストロムのバイディア氏は批判。少なくとも一部の案件では、内部関係者が事業転換が公表される前に、当該企業の株式とそれが投資する仮想通貨を大量に取得し、公表後に売却するケースがあったと続けた。
一部のDAT会社は、内部関係者の株式売却が可能になる正式登録の届け出を提出した直後に株価が急落した。
分散型金融(DeFi)ヘッジファンドのRe7キャピタルを率いるエフゲニー・ゴフベルグ氏は、DAT会社への投資を避けている理由の一つとして、「純資産価格(NAV)を上回る株価で取引する意味が見いだせない」と指摘。「基礎資産に対する明確な利回り追求戦略がほとんど存在しないためだ」と説明した。同社は、トランプ一家のDeFiプロジェクト「ワールド・リバティー・ファイナンシャル」と提携している。
投資家が参入する場合、「短期的な市場の高揚感や熱狂に賭けている可能性がある」と、ゴフベルグ氏は指摘。しかし「タイミングを誤れば、割高な価格で固定され、利回りも得られずに終わる可能性が高い」と警告した。
原題:A $25 Billion Crypto-Hoarding Craze Is Testing Market Nerves(抜粋)
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