サッチャー元英首相を称賛するスイスのケラーズッター大統領は、粘り強い実務家として知られる。だが、こうした特質がトランプ米大統領との会談ではあだとなり、自国に危機を招いてしまったようだ。

ケラーズッター氏は30年以上に及ぶ政治家としてのキャリアで、最悪の1週間を過ごした。スイスが誇る銀行業界への影響を抑えようと、破綻の瀬戸際にあったクレディ・スイスを急きょUBSグループに救済買収させるため慌ただしく動いた2023年よりも、ひどい1週間だった。

トランプ大統領はスイスに対し、39%の関税を課した。この関税率は先進国の中で最も高く、欧州連合(EU)の倍以上だが、これが緩和される見通しは立っていない。

ケラーズッター氏は関税導入前に最後の望みをかけて渡米したものの、成果なく帰国した。スイス政府は7人から成る緊急閣議を7日に開き、今後も関税引き下げを求めて米国と交渉を続ける方針を確認したが、打つ手はほぼないのが現状だ。

ワシントン入りしたスイスのケラーズッター大統領(6日)

スイスの大統領職は閣僚が1年交代で務める輪番制で、責任は内閣で共有される。それでも対米貿易交渉の失敗は、ケラーズッター氏に責任があることを否定できない。

昨年秋に行われたブルームバーグとのインタビューで、指導者として手本とする存在を問われたケラーズッター氏は、サッチャー氏に言及した。「鉄の女」と呼ばれたサッチャー氏を「傑出した人物」だったと称賛し、「信念と決断を貫く」姿勢を学んだと語っていた。

そうした信念が、トランプ氏に対する強硬な姿勢につながった。スイスの交渉担当者は合意が視野に入ったと感じていたが、先週の電話首脳会談で状況は一変した。

関係者によれば、ケラーズッター大統領は説教調の言い回しで、スイスが米国から何かを「奪っている」との見方を一蹴し、交渉にはサービス分野も含めるべきだと主張した。だがこの主張は、スイスの高級腕時計や金、医薬品といった財の貿易収支による米国の赤字に焦点を当てていたトランプ氏とはかみ合わなかった。

 

原題:Swiss Leader Who Admires Thatcher Reaches Limits in Trump Clash(抜粋)

--取材協力:Bastian Benrath-Wright.

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