(ブルームバーグ):米国は日本からの輸入品に対する関税の「スタッキング(上乗せ)」を終了させる内容の発表に向け、最終調整を進めている。トランプ政権の高官が8日に明らかにした。
匿名を条件に同高官が語ったこの動きは、日米関税合意後に広がっていた混乱を解消するものとなる。赤沢亮正経済再生担当相が7日にワシントンで記者団に行った発言内容とも一致する。発表は日米両国による共同声明という形をとる可能性があるという。
赤沢氏は米東部時間7日、米閣僚と会談し、対日自動車関税を引き下げる大統領令の発出と日本製品への15%の関税上乗せを是正することを確認していた。協議内容について米側は現時点で公式発表をしていない。
赤沢氏はワシントンで記者団に対し、日米間の合意に沿っていない内容の大統領令が発令され、適用が開始されたことは「極めて遺憾」と発言。米閣僚も今回の米側の手続きは遺憾であったとの認識を表明したという。
その上で、米側は「適時に大統領令を修正する措置をとる」と説明。同時に自動車・自動車部品への関税率を15%に引き下げる大統領令を出すことも確認した。具体的な時期については米側が判断するとしながらも、「半年、1年ということは当然ありえない」とし、常識的な範囲で対応がなされるとの認識を示した。
帰国した9日夕には、記者団に対して、「米英の合意が成立してから、その合意が実施されるまでだいたい54日間かかっている」と話し、前例を参考に「 一刻でも早く」と自動車分野での関税引き下げの早期実施を求める考えを示した。
一律関税がかかるのは自動車や鉄鋼などの分野別関税の対象外の品目。米側は今月7日以降徴収した関税のうち超過分はさかのぼって払い戻すとの説明もあったという。赤沢氏は、引き続き米側に対して一律関税に関する大統領令の修正と、自動車関税の発令を「あらゆるチャンネルを通じて強く申し入れていく」と述べていた。
日本側は既存税率が15%以上の品目には上乗せされず、それ以外の品目は税率が15%になるとの認識を示していたが、米国の大統領令や官報ではそうした記述は見られなかった。日本政府の説明と異なる状況が続けば、経済活動に混乱が生じ、政治に対する不信感が高まりかねない恐れがあった。
日本政府の認識とは異なる大統領令が発令されたことについて、国会から説明が求められている。立憲民主党の笠浩史国対委員長と自民党の坂本哲志国対委員長は8日会談し、来週中に衆院予算委員会の理事懇談会で赤沢氏から経緯を聞き取り、質疑を行うことで合意した。

米側の事務処理
内閣官房の発表によれば、赤沢氏は7日午前にラトニック商務長官と約3時間、午後にはベッセント財務長官と約30分間それぞれ協議した。赤沢氏は6日午前にもラトニック氏と約1時間30分協議していた。
赤沢氏は、日米間の合意内容に沿わない大統領令の発出と適用の開始は、「米側内部の事務処理に際して発生したもの」と説明した。
日米間の「齟齬(そご)」は野党が指摘している共同文書がないことが原因かとの問いに対して赤沢氏は、合意後に文書作成を目指していれば上乗せ関税発動期限の8月1日に間に合わず、「25%の上乗せになっていった」との見方を示した。「共同文書を作成していないから何か起きたというのは私は全く理解ができない」とした。
自動車・自動車部品の関税引き下げの時期も焦点だった。いずれも25%の追加関税が課されているが、日本政府は、7月の協議では既存の税率と合わせて計15%まで引き下げることで合意したと説明していた。
米自動車業界などからは、自動車分野の関税引き下げをトランプ政権が認めたことについて、対日貿易赤字の主因に対処していないとして批判が噴出している。昨年の対日貿易赤字の約80%を自動車および自動車部品が占めた。
(6段落目に赤沢経済再生相の9日のコメントを追加します)
--取材協力:宮井伸明、松井玲、横山桃花.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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