(ブルームバーグ):決算シーズンではほとんど話題にすらならなかった企業が、ある日突然オンライン掲示板レディットのスレッドで脚光を浴び、株価が400%上昇、自分の顔が柴犬に合成されたミーム画像としてネット上を飛び交う。企業の最高経営責任者(CEO)にとって、そんな論理を超えた展開が「ミーム株」の世界だ。
不動産プラットフォームのオープンドア・テクノロジーズ、ドーナツチェーンのクリスピー・クリーム、百貨店のコールズなどのCEOは最近、まさにその状況に直面した。かつてのゲームストップやAMCエンターテインメント・ホールディングスのように、これらの企業もまた、突如として投機の対象となる状況に陥った。
一時的な株価上昇がもたらすつかの間の好機をどう生かすか。経営者は取締役会から答えを求められる。相場の重力が再び働き始める前に、資本を確保したいと考えるのは当然だ。
データトレック・リサーチの共同創業者ニコラス・コラス氏は「市場はこれをゲームとして扱っている」と指摘。「だが、優れたCEOや取締役会は、ビジネスや戦略、将来をゲームとして見てはいない。これは非常に深刻な問題だ」と語る。
以下は、ミーム株化の瞬間を活用する手引書だ。
ミーム株ブームを現金化
ミーム株になると、合理的な価格評価が一時的に機能しなくなる。デューク大学のキャンベル・ハービー教授は、株価が過大評価されているときこそ「新株を発行して市場から資金を調達すべきだ」と指摘する。
その成果は大きい。2021年の初期ミーム株ブームでは、ゲームストップが株式発行を通じて10億ドル(約1480億円)以上を調達。AMCは複数回の株式発行で数十億ドルを得た。経営破綻寸前だった同社は、22年には金鉱山に出資する余裕さえあった。
新株発行に株主承認が必要な場合は、速やかに承認を得て、調達資金の用途を明確に示す必要がある。負債返済や事業再投資、あるいはリスクを取った資産分散も選択肢になり得る。
ただし、株価高騰がビジネスモデルへの信頼を示していると誤解してはならない。たいていは小口投資家による短期的な投機熱であり、長期のビジネス戦略への支持ではない。
もう一つの注意点は、迅速だが拙速ではない対応を取ることだ。ミラー・タバクのチーフ市場ストラテジスト、マット・メイリー氏は、動きが速過ぎれば投資家を利用しているように見えるし、遅過ぎれば勢いがしぼむ。CEOだけがそのタイミングを見極められると語る。
また、経営者が個人的に株を売却するのは避けるべきだ。自社株を売却すれば会社に対する自信のなさと受け取られるとハービー教授は警鐘を鳴らす。
対外発信に配慮せよ
自社の株価がインターネット上で話題になれば、CEOはもはや単一の聴衆に向けて発信しているわけではなくなる。従来の投資家は企業の信頼性を注視するが、ミーム株トレーダーはあなたが「理解している」というシグナルに注目している。
映画館チェーンAMCのアダム・アロンCEOの対応はその一例だ。同氏は21年、同社が個人投資家の間でミーム的存在となると、会員制プログラムの経験を生かして無料ポップコーンや割引チケットなどの特典を新たな個人投資家向けに導入。22年にはAMC優先株(ティッカー:APE)を創設し、個人投資家向けに発行した。
こうした対応は、企業の商品やサービスが個人投資家層と親和性がある場合には意味を持つ。ただしハービー教授は、経営陣が自社を「ミーム」銘柄と呼ぶべきではないと指摘。それは「ミーム」の本来の意味を考えてみれば分かることであり、企業は質の高い会社として認知されたいはずだと語った。
また、社員にも配慮が必要だ。注目が急に高まることに不安を感じる社員もいるはずで、自分たちにどう関係するのかを知りたがっているだろう。株価上昇は受け入れても、経営陣が自分の手柄だと主張すれば、不誠実と受け止められるリスクもある。
資産の多様化も選択肢に
株式を発行して得た資金を元に、代替資産に投資する道もある。注目されるのは暗号資産(仮想通貨)ビットコインだ。
ゲーム小売り大手ゲームストップの取締役会は3月、ビットコインを準備資産に加える方針を承認した。これはストラテジー(旧マイクロストラテジー)の共同創業者マイケル・セイラー氏が先駆けた手法であり、同社は700億ドル超のビットコインを保有することによって自社の株価を押し上げた。
タトル・キャピタル・マネジメントのマシュー・タトル氏は「いずれは、空売り残高が高いにもかかわらず買うことに理由が必要になる」とし、「ヘッジファンドを一度は引き付けたが、二度目は難しい」と語る。
もっとも、暗号資産への傾斜は自社を「投機銘柄」と再定義することになる。もし本業に信頼できる基盤があるなら、名声とのトレードオフは価値がないかもしれない。ただ、じり貧のままなら、「いちかばちかの賭けをしてもよいのではないか」とタトル氏は語る。
宴の後に備えよ
現実を直視する準備はできているか。家庭用品小売りのベッド・バス・アンド・ビヨンドは個人投資家の熱狂を集めながらも最終的に連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用申請に追い込まれた。個人投資家はほとんどの資金を失い、ショートセラー(空売り投資家)はかなりの利益を得た。ゲームストップの株価も、21年の高値からは大きく下落。AMCも再び低位株となり、ファン層も客足も減少している。
要するに、ミーム株化は事業再生の戦略ではなく機会だ。タトル氏が述べたように、最近のミーム株取引の急増から、最終的に勝者や敗者として浮上する企業はまだ分からないのが現実だ。
「AMCは繁盛している企業とは言えないが、ミーム株熱を活用して高値で株を発行し、債務を圧縮したのは賢明だった」と、インタラクティブ・ブローカーズのチーフストラテジスト、スティーブ・ソスニック氏は指摘。「もし発行していなかったら、破産を余儀なくされていた可能性もある」と付け加えた。
ネット上での人気はつかの間だ。だが、タイミングを正しく見極めれば、その「ムーンショット」は無事に地球に帰還し、資金や信頼といった永続的な成果をもたらすかもしれない。機敏に動けば、その両方を手にすることもできる。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:A CEO’s Guide to Making the Most of Your Meme Stock Moment(抜粋)
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