(ブルームバーグ):トランプ米大統領は7月31日、4月に発表した世界一律の基本関税の最低税率を10%に据え置くことにした。トランプ氏が大統領令に署名し、ホワイトハウスがファクトシートを発表した。対米貿易黒字を抱える国・地域からの輸入品には15%ないしそれを上回る関税率を適用する。
トランプ氏は今回の措置も通じ、世界の貿易体制の見直しに向けた取り組みを引き続き推進する姿勢だ。
米国は先に、日本に対する関税率を15%とし、自動車・同部品に対する関税率も15%に設定することで合意に達している。ホワイトハウスのウェブサイトに掲載された大統領令の添付表には日本について15%の税率が明記されている。
ただ米政府高官は、見直された自動車関税率がいつ発効となるかは、まだ日程が決まっていないと述べた。トランプ政権と日本や欧州連合(EU)、韓国との間の合意では、自動車への関税率が25%から15%に引き下げられることとなっている。
8月1日の交渉期限を目前にホワイトハウスが発表した内容によれば、新たな関税率は基本的に大統領令の署名から7日後の米東部時間8月7日午前0時1分(日本時間同日午後1時1分)に発効する。
多くの貿易相手に対する基本関税は、4月に発表された税率から変更されておらず、トランプ氏が以前に引き上げの可能性を示唆していた点を踏まえると、投資家にとって安心材料となりそうだ。
それでも、トランプ政権の新たな関税率の発表後、株価は下落圧力に見舞われ、MSCIオールカントリー・ワールド指数は0.2%下落した。米S&P500株価指数先物も0.2%下げ、欧州株の先物は0.6%安となった。アジア株は0.7%安と6営業日続落し、今年最長の下落局面を記録した。
外国為替市場では、台湾ドルと韓国ウォンの下落が目立ち、スイスからの輸入品への税率が新たに39%に引き上げられたことでスイス・フランも軟化した。
総合的に見ると、米国のほぼ全ての貿易相手からの輸入品への関税が大幅に引き上げられる結果となる。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の分析によれば、今回の発表通りの関税率が実施されれば、米国の平均関税率は15.2%と、これまでの13.3%から引き上げられる。これは2024年時点の2.3%と比べて著しく高い水準だ。

トランプ氏の関税措置は既に米政府に多額の歳入をもたらしている一方、経済への長期的影響は不透明なままだ。関税率引き上げが米国の消費者や企業にとってコスト増を招き、インフレを悪化させるとの批判もある。
トランプ氏は今後数週間以内に医薬品や半導体、重要鉱物、その他の主要な工業製品の輸入に対する個別の関税措置を発表する見通しで、企業や投資家にとって不透明な状況が続く。

対カナダは引き上げ
一方、米国はカナダからの一部輸入品に課す関税率を3月に発動した25%から35%に引き上げる。ホワイトハウスが別途発表したファクトシートで明らかにした。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の基準に適合するカナダからの輸入品は、新たな関税の対象外となる。
ホワイトハウスは、「カナダは合成麻薬フェンタニルと他の違法薬物の流入抑制に協力せず、米国に報復した」と関税率引き上げの理由を説明した。既に緊張状態にある両国関係の新たな火種となる恐れがある。カナダ・ドルは関税引き上げにもかかわらず安定した動きを示した。
一方、台湾からの輸入品には20%の関税を課す。台湾の頼清徳総統はこれについて、20%は米国との協議開始の段階から台湾の目標では決してなかったと現地メディアに発言。今後の交渉を通じて一段と「合理的」な税率の確保を目指すと語った。
ホワイトハウスはこれとは別に、貿易枠組みが最終的にまとまっていない複数の貿易相手国・地域からの輸入品に対する関税率の一覧を発表した。トランプ氏がほとんど交渉意欲を示してこなかった主に中小規模の国・地域には10-15%の関税が適用される見通しだ。
トランプ氏は日本やEUや英国、韓国などの主要な貿易相手国・地域とは合意に達しているが、インドやブラジルなどには一方的に関税を設定している。
関税率は国別に設定されたもので、トランプ氏が4月に最初に発表したものの、数十の国・地域との交渉時間を確保するため2度にわたって適用が延期されていた。

ホワイトハウスのレビット大統領報道官は31日の定例記者会見で、8月1日発効の新たな関税率を貿易相手に課す大統領令について、トランプ氏が31日に署名すると明らかにしていた。
今回の発表で少なくとも当面は、トランプ氏がどう国別関税を設定するか数カ月にわたる様子見の状況に一区切りがついた。トランプ氏は関税措置を米国の貿易赤字縮小や製造業復興を目指す自身の計画の柱に位置づけている。
大きな例外は中国で、同国は米国との高関税一時停止措置が今月12日に期限を迎える。トランプ政権はこの期限が延長される可能性が高いことを示唆している。最終決定は下されていないが、ストックホルムで先月行った米中協議は前向きな内容だったと、米政府高官は説明している。
今回の大統領令は非公開の場での署名となった。トランプ氏が4月に上乗せ関税を発表した際のようなホワイトハウスのローズガーデンでの派手な演出や、税率を記したパネルを掲げるようなパフォーマンスもなかった。

原題:Trump Boosts Tariffs Across World, Reshaping Global Commerce(抜粋)
(新たな相場動向を追加して更新します)
--取材協力:Jennifer A Dlouhy、Meghashyam Mali、Swati Pandey、Katia Dmitrieva.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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