(ブルームバーグ):トランプ米大統領の側近らは、総工費が25億ドル(約3700億円)に膨らんでいる米連邦準備制度理事会(FRB)本部改修工事について調査を求めている。
ホワイトハウス当局者が示唆しているように、不正や管理不行き届きの証拠があれば、トランプ氏が利下げに慎重なパウエルFRB議長を解任するための好都合な口実となる可能性もある。
だが、工費が膨張した背景には、「豪華」な設計よりも、ポトマック川沿いのタイダルベイスンに近く、かつて湿地だった土地での建設、とくに地下構造に絡んだ技術的な困難が大きい。
FRB本部拡張における基礎工事は極めて難しいことから、請け負った建設業者は2025年に、ワシントン建設協会から「逆境の中での卓越性」賞を受けている。

改修対象は、1937年完成のFRB本部と、隣接する1931年建設の建物。老朽化が進んでいた建物の改修は長年延期されており、費用は2023年以降に30%余りも増加した。
トランプ政権当局者らは、この費用膨張を無駄遣いの結果だと批判している。行政管理予算局(OMB)のボート局長はパウエル議長宛ての7月10日付の書簡で、改修工事について「屋上テラスの庭園」や「VIP用の食堂・エレベーター」などを含む「豪華な全面改装」だと指摘した。連邦住宅金融局(FHFA)のパルト局長も議会による調査を確信していると述べた。
一方のパウエル議長は、改修工事の透明性を主張しており、今月17日の書簡でボート氏に反論。屋上庭園はあくまで緑化屋根であり、エレベーター拡張は障害者対応の一環だと説明した。
改修は難工事とされ、当初の見積額は19億ドルだった。FRB本館(エクルズ・ビル)および東館では、新たなオフィススペースの追加、アスベストや鉛の除去、旧式設備の交換などが進められている。いずれの建物も本格的な改修はなされてこなかった。
コスト増加の大きな要因の一部は目に見えないものだ。構造用鋼材の価格は改修工事直前の21年に高騰した。ワシントン中心部での公共工事には多数の審査機関が関与し、これが工程遅延の一因となった。さらに、これらの歴史的建物の改修には、01年9月11日の米同時多発テロ後に制定された連邦政府の安全基準も考慮しなければならない。
中でも特に困難を極めるのが地下工事だ。
FRB本館の地下駐車場をオフィススペースに転換するため、構造の下で深い掘削が必要。また、東館の北側には5階層の増築部分が計画されており、高さ制限や歴史的景観の保護などから4フロアは地下階となる。さらに東館南側の芝生地下には318台分の駐車場が新設される予定だ。FRBが公開した資料によれば、地下水位は建築業者の予測よりも高かった。
既存建物の下に地下階を建設するのは大工事だ。基礎工事専門業者バーケルは、既存建物の基礎スラブを物理的に下げ、構造物を支えながらその下を掘削する必要があった。
また、歴史的建造物の地下を掘削する工事は高額になる。スミソニアン協会の19世紀建築「キャッスル」でも地下拡張を伴う耐震工事案が提案されたが、費用が試算で20億ドルに上ったため撤回された。
FRB本部のすぐ南側、ナショナルモール沿いの建設には困難が伴う。1世紀前にはその多くの土地が存在していなかったからだ。景観設計家のフィア・セネット氏は、タイダルベイスンとその周辺地域はポトマック川からしゅんせつされた堆積物で埋め立てられ、小川の上に造成されたものであることを指摘している。
パウエル氏は6月の議会証言で、この改修事業について「困難な取り組みだ」と認めている。
同氏は「誰も任期中に歴史的建築物の大改修をやりたがらない。しかし、私は議長に就任する前、運営担当の理事だった頃にこの建物の劣化を実感し、大規模な改修が必要だと考えた。建物は安全性にも防水性にも問題があった」と述べた。

改修を手がけているのは、オランダのデザインコンサル会社アルカディスと、ワシントンの建築設計事務所クイン・エバンスの共同事業体「フォータス」。両社はブルームバーグの取材に対し、コメントを控え、FRBに問い合わせるよう回答した。
エクルズ・ビルのデザインプランは当初案から大きく変更された。トランプ政権1期目に、FRBの提案でガラスを多用する案が建築家から出されたが、大統領任命の美術委員会は白い大理石の使用を増やすよう求めた。連邦政府の建築物を古典的な様式に統一することを求めるトランプ氏の指示に沿うものだった。この要請はAP通信が最初に報じた。
原題:Why the Federal Reserve Building’s Renovation Costs $2.5 Billion(抜粋)
--取材協力:Amara Omeokwe.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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