(ブルームバーグ):7月20日の参議院選挙で投資家は、日本の国債、株式、円のトリプル・ディップ(3市場の同時下落)の可能性に備えている。石破茂首相率いる自民党に公明党を加えた連立与党は非改選を含めた過半数(125議席)の維持は困難との情勢が世論調査で示されている。
昨年の衆院選で過半数割れとなった与党が参院選で敗北すれば日本の財政・経済政策の見通しに不確実性を招き、株式相場を不安定化させて国債や円の売りも誘発するリスクがあるとの見方がストラテジストや投資家の間で広がっている。

日本が数十年にわたる停滞とデフレ、マイナス金利、中央銀行の大規模な国債購入を経てインフレ経済への移行を進める中、市場の動揺は政府債務の負担に対する懸念が高まっていることを反映している。長期国債の利回りは今週、自民党が弱体化すれば野党が財政拡大計画や減税を推進できるとの懸念から、歴史的な高水準に達した。
トランプ米大統領は日本からの輸入品に8月1日から25%の関税を賦課すると発表しており、貿易の見通しも危うい状況にある。投資家は、石破氏の敗北が2国間の関税交渉を頓挫させ、自動車メーカーなどの輸出企業の株価に悪影響を及ぼし、円安につながることを懸念している。
UBS証券の日本株ストラテジスト、守屋のぞみ氏は「政治のリーダーシップの弱さは、投資家にとっての日本の魅力に重くのしかかっている課題である」と指摘した。「アメリカの不確実性をグローバルな投資家が感じている中、わざわざ政治のリーダーシップが弱い日本に投資を振り向ける必要があるかという議論になる。日本の優先順位は上がりにくいというのが海外の投資家の受け止めだと思う」と語った。
国債
与党が過半数を維持できなかった場合は、財政規律の緩みが懸念される状況を引き起こし、日本国債の売り圧力を招く可能性が高いとストラテジストは指摘している。
いちよしアセットマネジメントの秋野充成社長は、「財政拡大で歯止めがきかない雰囲気が出た場合に、売り仕掛けがあるかもしれない」と超長期金利について指摘する。海外勢が超長期債を保有していることなどから、英国での「トラスショック」のような事態になるリスクもあると話した。
「財政ネタに敏感な外国人投資家が主な超長期国債の買い手となるなか、選挙後に超長期国債の需要が回復した過去の事例通りにはならない可能性がある」とモルガン・スタンレーMUFG証券の上里啓と杉崎弘一両ストラテジストはリポートで指摘している。
「自公が過半数をとった場合、過半数割れした場合の30年国債利回りの居所はそれぞれ複利ベースで2.9%、3.2%程度になると考える」としている。
同時にこうした値動きを好機と捉える声も出ている。ブラックロックのアジア太平洋地域のファンダメンタル債券部門責任者、ナビン・サイガル氏はブルームバーグテレビジョンの番組で「国債市場での価格のゆがみを注視している」と述べ「そのような状況が発生した場合、その機会を積極的に活用したいと考えている」と語った。

株式
自民党の弱体化は株式市場にも悪影響を及ぼす可能性があり、特に米国との進行中の関税交渉において日本の立場を弱める場合、その影響はさらに深刻化する可能性がある。
野村証券の沢田麻希ストラテジストは「与党が過半数を割り込むと、通商交渉が遅れてしまうという懸念が高まる。日米交渉は自動車のほか日本企業全体の業績動向にとって重要なので、株の売りにつながるかもしれない」との見方を示した。
日本株とグローバル株式は、トランプ氏の関税政策に対してこれまで耐性を示しており、東証株価指数(TOPIX)は17日終値で4月の底値から24%回復し、過去最高値に近い水準で取引されている。トランプ大統領の8月1日の関税発動前に貿易休戦が実現するとの期待が日本の株価上昇を後押ししているが、選挙後の政治的不安定さが投資家のリスク許容度を低下させる可能性がある、と沢田氏は述べた。
自民党の議席減は、石破氏の防衛費増額計画にも疑問を投げかけ、過去1年間で日本株の主要なけん引役となってきた防衛関連の株価に圧力をかける可能性がある。
スイスクオートのシニアアナリスト、イペック・オズカルデスカヤ氏は「政治的連続性の弱まり」という感覚は、日本の株式市場に重くのしかかるだろうと述べた。特に、政策に敏感と見なされるセクター(防衛、インフラ、グリーンテクノロジー)が影響を受けるだろうとした。
一方でフィリップ証券の笹木和弘リサーチ部長は「与党が負けて、野党の大連立になるとしたら、消費減税など大掛かりな消費拡大のための政策転換の可能性がある」とし、それは内需株の追い風となり、日経平均株価の高値更新を後押しする材料になり得るとみている。

為替
与党の弱体化により財政不安が深刻化し、日本資産への信頼が損なわれる場合、円は下落する可能性がある。円が選挙後に1ドル=150円の重要な心理的節目を突破する可能性があるとの指摘がある。これは、トランプ大統領が4月に関税政策を発表して以来の水準となる。
「円は下落し、国債利回りは上昇する。それが全体像だ」と、アルファ・ビンワニ・キャピタルの創設者、アシュウィン・ビンワニ氏は述べた。
豪ペッパーストーングループのストラテジスト、ディリン・ウー氏は、政治的な不確実性は、円に対する短期的な安全資産としての需要を刺激する可能性があると述べた。「ただし中長期的に見ると、財政赤字の拡大と債券利回りの上昇が通貨に下落圧力をかける」と指摘した。
バークレイズ証券の門田真一郎為替債券調査部長は、政治的分断は、日本銀行が近い将来に金利引き上げを行うとの市場の見通しを低下させる可能性があり、その場合、円安も進む可能性があるとリポートで指摘した。
門田氏は同時に、米国からの利上げ圧力がある中で日銀の「利上げ方針が大きく揺らぐことは考えにくい」として「円安圧力を強める可能性は低い」との見解を示した。

--取材協力:横山桃花、グラス美亜、Matthew Burgess.
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