カナダのコンビニエンスストア大手、アリマンタシォン・クシュタールは、セブン&アイ・ホールディングスに対する買収提案を撤回すると発表した。巨額買収の頓挫で、セブン株は一時前日比9.6%安の1997.5円を付けた。

クシュタールは、建設的な協議にセブンが応じなかったことが理由だと主張し、同社の取締役会宛ての書簡も公表。協議の場は、厳しく制約されたマネジメント・ミーティングが2回で、資産査定(デューデリジェンス)の機会も限られていたとした。

一方でセブンは、クシュタールが協議を一方的に終了し、買収提案を撤回する決定を下したことを確認したとの声明を発表。決定は不本意であるとしながら、主要事業の業績の早急な改善にむけた取り組みに引き続き注力するとした。

昨年8月、クシュタールがセブンに対して法的拘束力のない買収提案したことが明らかになった。セブン側は自社主導での企業価値向上なども模索。一時は創業家が主導して経営陣が参加する買収(MBO)計画も浮上したが頓挫した。

セブンのロゴ

クシュタールは1株あたり2600円を提示しており、実現すれば総額7兆円弱と海外企業による買収では最大規模になるはずだった。同社の提案に端を発したセブンの経営の混乱はいったん幕引きとなるが、買収を期待して株価は上がっていたため、物言う株主(アクティビスト)や投資家の動向が焦点になりそうだ。

オルタス・アドバイザーズのアンドリュー・ジャクソン日本株戦略責任者は、政府の外為法などから、案件が成功する可能性は「もともと非常に低かった」と指摘。一方で、株価は約1年前に買収案が明らかになる前の水準から25%ほど上昇しており、「まずは急落して始まる可能性がある」と取引開始前に述べていた。

東京証券取引所は17日、買収提案の撤回に関する報道の真偽などの確認のため、午前8時20分からセブン株を売買停止にすると発表した。その後、午前10時16分に再開していた。

焦点はIPOに

ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の消費者アナリスト、リア・エルハーゲ氏は17日付のメモで、買収提案撤回で、セブンの経営陣に対する業績改善圧力は強まったと指摘。また北米事業を運営するセブンーイレブン・インク(SEI)の新規株式公開(IPO)を通じた資金化に焦点が移る可能性があると述べた。

一方で社債に関しては、巨額買収に伴う財務悪化懸念が払拭されたとしてスプレッド縮小の可能性を指摘する声が上がる。SMBC日興証券の吉川毅シニアクレジットアナリストは、今後は社債価格が上昇していくとみられ、投資妙味があると述べた。

セブンは買収が米国の独占禁止法に触れることを強く懸念し、解決策を見いだすことが前提条件としてきた。書簡によれば、クシュタールは買収が計画通り進まなかった場合にセブンに約12億ドル(約1800億円)を支払うとの条件を提示していた。両社は米当局の承認を得るために米国で約2000店舗を売却することを模索し、複数の買い手候補がいたものの、「最小限の協力しか受けられていない」とした。

代替案交渉も

また、両社が買収提案の代替案についても交渉していたことが明らかになった。クシュタールは日本事業の4割と海外事業の全てを取得する案を出し、セブンはSEIへの出資を受け入れることを条件に、クシュタールへの出資を求めたという。

クシュタールはセブン創業家との対話も求めてきたが、応じてもらえなかったと説明。また、クシュタールがミーティングで投げかけた質問に対する回答にセブンの役員が対応しようとした時、現社長のスティーブン・デイカス氏が遮り叱責する場面があったほか、予定よりも大幅に短い時間で会議が切り上げられたことについても、書簡の中で言及し、不満をにじませた。

クシュタールのアレックス・ミラー最高経営責任者(CEO)は先月、2-4月(第4四半期)決算の電話会見で、交渉では買収が実現するかどうか「明確にするためのタイムラインが策定されている」と説明。「このタイムラインは長引くことはなく、短期間だと考えている」と語っていた。

(社債の情報を追加します)

--取材協力:横山桃花、長谷部結衣.

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