米テキサス州を今月襲った洪水では130人以上が死亡し、推定180億-220億ドル(約2兆6800億-3兆2800億円)の損害が生じた。

同州はこれまでも気象災害に見舞われている。2017年のハリケーン「ハービー」ではヒューストンで水害が発生し、21年の厳しい寒波では州内の送電網に障害も出た。そして昨年には複数の気象災害で数十億ドル規模の被害がもたらされた。

こうした事例は、テキサス州が自然災害に極めて脆弱(ぜいじゃく)であることを浮き彫りにした。地理的条件や州の広大さ、それに一部の政策判断によって住民は暴風雨の被害を受けやすい状況に置かれている。

テキサス州は気象災害に特に脆弱に見えるが、他州より深刻なのか

結論から言えばイエスだ。カリフォルニア州やフロリダ州ではなく、テキサス州こそ米国における異常気象の中心地だ。米海洋大気局(NOAA)の米国立環境情報センター(NCEI)によると、同州では1980年以降、物価上昇の影響を除いた損害額が10億ドル以上の気象災害が190件発生。次に多いジョージア州を56件上回った。

これらの災害の損害額はインフレ調整後で約4400億ドルに達し、フロリダ州に次ぐ規模となっている。

 

なぜテキサス州はそれほど脆弱なのか

テキサスは、湿った不安定な空気をもたらすメキシコ湾の西端に位置する。地形の影響で、この湿った空気が急上昇し、雷雨を頻繁に引き起こして竜巻や豪雨をもたらすことがある。海岸線が367マイル(約591キロメートル)に及ぶ点も、同州がハリケーンや熱帯低気圧に見舞われやすい要因だ。ハワイを除きテキサスには、1日および数日間の降水量で最高記録がある。

テキサスは「トルネードアレー」と呼ばれる米中部の竜巻多発地帯にある。この地帯ではメキシコ湾の不安定な空気が、ロッキー山脈から張り出す寒冷前線とぶつかり、竜巻が発生しやすい。

州内には干ばつや山火事が起きる地域もある。また、米国の南端に位置するテキサスは、暑さが最も厳しい州の一つでもある。一方、寒波が到来することもあり、厳しい寒さと降雪が観測される。

テキサスは全米で2番目に面積が広い州で、人口が多く、インフラの数も膨大だ。米国で人口の多い15都市のうち5都市がテキサスにあることで、リスクにさらされる人や建物も多いと、NOAAが資金を拠出する研究機関、南部地域気候センター(SRCC)のジョン・ニールセンガモン所長は指摘する。

気候変動がテキサス州の脆弱性を高めているのか

その通りだ。昨年発表されたテキサス州の気候評価報告書によると、同州の気温は1800年代以降、少なくともカ氏2度(セ氏1.1度)上昇した。これは全米平均並みだ。

気温が上昇すると、空気はより多くの水分を保つことができ、豪雨や洪水を引き起こす。温暖化による気候条件が、テキサス州カー郡を襲った記録的洪水の要因になった可能性が高いと気候科学者は分析する。今回の洪水は、数カ月にわたる干ばつで土壌がもろくなり、吸収性が低下した後に起きた。

ライス大学のシルビア・ディー准教授(地球・環境・惑星科学)は、テキサスは「気候変動のグラウンドゼロ」だと指摘。「われわれは低温、極暑、ハリケーン、洪水、竜巻の全てを経験している」と語る。

州政府の運営が影響しているか

ライス大学の環境法教授で、激しい暴風雨予測・教育・災害避難センターの共同ディレクターを務めるジム・ブラックバーン氏は、州の規制アプローチが重要課題だと指摘する。例えば、テキサスは洪水危険区域での大規模開発を容認し、域内の雨水吸収能力を制限している。テキサス州水資源開発当局の報道官は声明で、洪水危険区域の開発について「州が定める要件」はないが、地方自治体には「要件を設定する権限があり」、全米洪水保険制度(NFIP)に参加できると説明した。

米国土木学会(ASCE)の最新の年次報告書では、テキサスのインフラ評価は「C」で、全国平均と同水準だった。だが、雨水管理「C-」、ダム「D+」、堤防「D-」と、洪水対策の主要インフラがいずれも平均を下回った。

送電網は深刻な気象現象でどうなったか

テキサス州オースティン近郊の送電線

テキサスの送電網は、特に21年2月の停電以降、緊急事態対応の焦点となってきた。寒波によりガスプラントや燃料生産施設の設備が凍結し、送電網の大規模障害が発生した。州は送電網を強化する対策を講じてきたが、その後も危機的状況や警告が相次いだ。

この問題について多くの専門家は、州内の送電網が他の州からほぼ孤立している仕組みに起因するとみている。こうした仕組みは1930年代から続いている。同州で送電網を運営するテキサス電気信頼性評議会(ERCOT)が州内のエネルギー需要の約9割を賄い、近隣の送電網と接続する高電圧送電線が非常に少ない。このため、テキサス州の送電網に制約がかかった場合、近隣の州から電力供給を受けられない。

テキサス州の洪水対策・警報体制のあり方に問題があるのではないか

7月4日の週末に発生したテキサス州の大規模洪水について、一部の住民は急激な増水に関する当局の警報は全くなかったと語り、警報が発令された時点で手遅れだったと話す住民もいた。対応がうまくいかなかった原因を探る連邦当局は今後、警報システムの妥当性を検証する。

洪水の被害が集中したカー郡の当局は、洪水警報システムの更新を10年以上にわたって提案していたが、資金を確保できなかったとしている。州当局は、連邦資金による更新案を2回却下した。だが今回の災害を受け、テキサス州のアボット知事は、河川警報システムの問題を取り上げる州議会の特別会合の開催を表明している。

原題:Why Texas Is So Vulnerable to Climate Disasters: QuickTake(抜粋)

--取材協力:Naureen S Malik.

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