「米国依存からの自立」にまで言及

その後10日夜、石破総理は、BSフジの番組でこの発言の真意を問われました。この中で石破総理は、安全保障や経済、エネルギーなどで「米国依存からもっと自立する努力をしなければいけない。いっぱい頼っているから言うことを聞けということだとすれば、侮ってもらっては困るということだ」と説明しました。全くフォローになっていないばかりか、そもそも、理解に苦しむ発言です。

「米国依存からの自立の努力が必要」という前段は、それだけをみれば一つの考え方ですが、今の日米交渉の文脈で総理が公言する言葉でしょうか。自動車をはじめとする日本製品の対米輸出に、日本経済が大きく依存しているからこそ、今、厳しい交渉を行っているのです。依存しているからこそ、関税を当初案より下げて欲しいと必死に申し入れているのです。交渉相手からすれば、「自立したいなら高関税を受け入れてどうぞ自立して下さい」という話になりかねません。今、言わなくてもいい、実に「無用」な発言です。

自由貿易の精神を忘れたのか、いたずらに世界経済を混乱させるのか、同盟国なのに失礼なやり方だ、など、トランプ政権に言いたいことは、どの国も山ほどあります。それでも「頼っていること」が山ほどあるから、少しでも関税を下げて欲しいと、赤澤大臣以下、政府一丸で交渉を行っているのです。総理は政府の司令官です。その指令官が、そもそも依存がおかしいのだなどと、したり顔で言うのでは、現場の交渉官はたまったものではありません。

相互関税25%は8月1日発動

トランプ大統領は、7日、日本に対する相互関税を、今の10%から25%に引き上げることを、書簡で通知してきました。相互関税は、4月の発表段階より1%上乗せされたわけで、これまでの日米交渉をアメリカ側が評価していないことの表れだとみられています。発動は8月1日で、参議院選挙後、わずかな時間しかありません。

選挙前に交渉のカードが切れないことを考えると、選挙期間中の今は、選挙後の日米交渉への、いわば「弾込め」の時期です。総理には、貿易赤字削減策やコメの輸入拡大など、「シンプルな」対応策が打ち出せるよう、水面下での準備作業にまさに指導力を発揮して欲しいものです。

「なめられてたまるか」などという乱暴な言葉で、ナショナリズムを刺激して共感を得ようとしているのだとしたら、これまでの石破さんらしくもないじゃありませんか。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)